sinkaron | ナノ
「…んん?」


 翌日の朝、いつもと何ら変わらないはずの下駄箱に一枚の手紙が入っていた。何だろうと首を傾げながら手紙を手に取って眺めていると、たまたま隣に来た友達が驚いたように
「えっ!これ絶対ラブレターだよ!」
と言って私の背中をばしばし叩く。私はそれ聞き、慌てて手紙をポケットに押し込んだ。

「いやいや…ないって」
「何言ってんの、じゃあ読んでみたら?」
「こ、ここで?」
「そうここで!」

何故か私よりも友達の方が興味深々に手紙を指差す。私はとりあえず手紙を出して封を開け、どうも乗り気になれないまま中の紙を引っ張り出した。隣で今にも飛び跳ねそうな友達に苦笑しながら二つ折りにしてある紙を広げる。と、そこには特にこれといった特徴のない書体で

"名字さんへ"

とだけ書いてあった。

「……え?これだけ?」
友達も私と同じような反応をし、気分が上がるわけでも下がるわけでもなくただただ首を傾げる。何の変哲もないシンプルな便箋を手にしたまま、私は「いたずらかもね」と言って困ったように笑って言った。すると友達も何だかはっきりしないような表情を浮かべる。

「もしかしたら緊張しすぎて本文書いた紙入れ忘れたのかも!」

なんて冗談っぽく笑いながら言った友達は「ほら早く教室行こう」と私の手を引いて教室へと足を進めた。私はそんな友達に続いて歩きつつ、持っていた紙を封筒の中に戻そうとしたのだが。
(……ん…?)
何かがつっかかって上手く中に入らない。まだ何か入っていたのだろうかと思い中を確認するとそこには写真のようなものが入っていた。私に何やら話し掛けてくる友達の言葉に相槌を打ちながらその紙より分厚いものを出してみる。


「…――っ…!!」


それを見た私はぞくりと背筋が凍るような感覚に襲われ、咄嗟に手に持っていたものを全部まとめてポケットに突っ込んだ。ぐしゃ、という感触と共に友達が不思議そうな顔で振り返る。

「…名前?」
「……」
「どうしたの?体調悪い?」
「っ…別に何でも…」

冷や汗が背中を伝ったような気がした。私は友達の視線から逃げるように目を逸らし、軽く首を横に振ってからもう一度「何でもない」と口にする。友達はそんな私の言葉を聞いてまた心配そうな顔をした。

「だって、顔…真っ青だし…どっか痛いなら保健室に
「だ、大丈夫…大丈夫だから」

今度は私が「早く教室行こう」と彼女を急かす。さすがの友達もそれ以上は詮索しようとせず、一緒に教室に戻ってくれた。





 教室に戻るとほぼ同時にチャイムが鳴り、私たちは慌ててそれぞれ自分の席に座る。
腰を下ろしてしばらくしても私の胸騒ぎが落ち着くことはなかった。

(…何で……)


ぎゅ、とスカートを握り締めて俯けば不意にポケットが視界に入る。私は震える手で、そこに手を入れた。指先が写真に触れると、さっきと同じ恐怖感のような感覚に襲われる。それでも私は唇を噛み締めながらゆっくりと誰にもばれないようにその写真を取り出し、今度はしっかりとそれに目を向けた。

「……ッ…」

その写真には、私が一番よく知る人物が映っていて。片手に傘、そしてもう片手にハンカチを握り締めながら嬉しそうに笑うその人物を見て私は再びぞっとする。だってそれは、


「ありがとう、爆豪君!」


昨日、彼にそう告げた時の私だった。


20150220