yubi | ナノ
「あんた最近よくボーっとしてるよね」

 放課後、いつものように友達と二人で教室を出ると突然そんなことを言われた。
友達は不思議そうに首を傾げて私を見ていたが、私が「えっ」と驚いたように視線を向けると今度は心配していると言わんばかりの表情をする。

「何かあったの?」
「う、ううん、何もないよ」
「またまたー。それに、休み時間になったらすぐ携帯見てるし」

もしかして好きな人でもできた?なんて笑いながら茶化してくる友達を苦笑いであしらった。

「………」

(私、そんなに携帯見てたかな)
正直全く自覚はしていないのだが、クラスで一番仲の良い友達にそう言われてしまっては信じない他ない。それにしても友達は私のことをよく見てるなあ、とか観察力が良いのかなとか余計なことを考えてしまったが、思い返してみればここ最近起きた色々な出来事について考えてボーっとしていた記憶がうっすらとある。それに、鳴子君のメアドを聞こうか悩みつつ携帯を気にしてしまっていた記憶も。

(…友達の言う通りかも)

心の中でぼやきながら昇降口を出て、私たちは校門へと向かった。すると途中で自転車部の人達が練習の準備をしているのが目に入って思わずじっと見つめてしまう。色とりどりの自転車が並べられ、そのすぐそばで三年生らしき人が部員達に指示を出している。しかしそこに、私の知っている二人の姿はなかった。
しばらく黙ったまま見つめていると友達もそれに気付いたのか
「あ、自転車部だ」
と呟いて足を止めた。

「すごいよねー、去年は何か大会で優勝したらしいし今年も気合いバッチリって感じ」
「うん。今年も目立って気張るんだって」
「目立って気張る?」
「鳴子君が言ってたの」

いつしか鳴子君と廊下で話した日のことを思い出して私は思わず笑顔を浮かべてしまう。そんな私を見て友達は何かを言い掛けたが、それより先に私の意識は他の物へと向けられた。それは、見たことのない男の子と二人で楽しそうに笑い合いながら部室から出てきた鳴子君の姿。隣にいるのはおそらく後輩だろう。

「……そういえばなまえって、鳴子と仲良いよね」
「え、そうかな?」
「ほら鳴子って目立つじゃん?だから一緒に居たり話したりしてるなまえも結構目立っててさ、よく目に入るってたまに話題になってるよ」
「そ、そうなんだ…知らなかった」

仲が良いというか、鳴子君がやたらと声を掛けてきてくれるから自然と一緒に居るだけなんだけど、それを"仲が良い"と言うのだろうか。(でも私、鳴子君のクラスと部活くらいしか知らないし…)
私は友達に何と返したらいいのか分からず、とりあえず鳴子君から視線をずらす。

「けどなまえってさ」
「ん?」
「あー、いや…なまえってああいうタイプ苦手なんじゃないの?」
「!」

思わずその言葉に反応してしまった。
(苦手……)

「だって、ちょっと前に皆で好きな男のタイプの話した時あんた静かな人の方が好きって言ってたじゃん?」
「あ…そう、だっけ?」

しまった、確かにそんな話をしたような記憶はあるが内容までは覚えていなかった。言われてみれば私は静かな人の方が好きだし鳴子君みたいにワイワイ騒ぐ人と接するのは苦手だった、と思う。

「今はどうなの?」
「…うーん、まあ、静かな人の方が……」

(好き、だけど………ちがう)
鳴子君は、苦手とか嫌いとかそういうのじゃない。ぐいぐい来られると困ったりするし大きな声を出されると周りに見られて恥ずかしいけど、でも、鳴子君のことを考えると嬉しくなったり次会うのが楽しみだったりもする。

これは、何て言うのかな。

「でも静かな人の方が好きってのはなまえらしいよ」
「そう?」
「だから鳴子と仲良いのが意外だなって思ったわけ」
「…それは…鳴子君がいっぱい話しかけてくれるからだよ」
「まぁあんたが仲良くしたくて一緒に居るなら良いんだけど別に無理して構うこともないんじゃない?」
「…そう、かな」

私はどちらかといえば鳴子君のこと、結構好きだけど。


 20150108