kirakira | ナノ
「名字さっき今泉に傘貸してたでしょ」
「え?」

放課後、先日喧嘩して無事に仲直りをしたさわっちと一緒に帰っていると突然そんなことを言われて驚いた。

「うん、そうだけど」
私は平然とした表情で傘を広げ、さわっちに視線をやる。すると私に続いて傘を広げたさわっちが「なんか、オーラがすごかった」と口にした。それはどういう意味だろう。
「オーラ?」
「うん。オーラ」
「……うーんよく分かんないなあ」

首を捻って考えてみたが結局さわっちの言った意味が理解できずに、苦笑しながらそう零した。さわっちはそんな私を見てやれやれという顔をする。
「あんたって本当に鈍感なんだね、そういうの」
「えっ」
怒られてしまったようだ。さわっちは結構サバサバしてるし思ったことをストレートに言うから最初は凹んだり吃驚したりしていたけど、もう慣れてしまったから気にしない。それにしてもさっきから何が言いたいのか理解できなかったため、分かるように教えてくれと頼むとさわっちは意外にも文句を言うことなく言い直してくれた。

「今泉が案外あんたに心開いてるっぽくて吃驚したのと、二人とも顔が良いから並んで話してると美男美女すぎて反応に困る」
「あはは、何それ」
「でも実際、今泉と仲良いでしょ。この前だって廊下で話してたし」
「うん!今泉君は数少ない類の友達だからね!」
「…う、うん?」

さわっちが頭にハテナを浮かべながら首を傾げるがあえてスルーして笑顔を向ける。そういえば今泉君、私が貸した傘ちゃんと使ってくれてるかな。お礼はラブヒメの話をするので良いって言った時の顔がすごく引きつっていた気がするが、疲れてるんだろうか。(運動部って大変そうだもんなー…)だったら今度はコーヒーじゃなくて甘いものでもプレゼントしよう。うん、それがいい。

「ホントにただの友達なの?」
「え?」
「だって二人とも、すごいお似合いじゃん。気が合うなら付き合えば良いのに」
「え、い、いやいや、だって今泉君だよ?恋愛とかすごく興味無さそうだし私だって興味ないし…それに」
「それに?」
「…ううん、何でもない!」

ぽつりと零してしまった私の意味ありげな言葉にさわっちはすごく反応したけど、私はそれを誤魔化して傘を持ち直す。ざあざあと降り続ける雨粒が、傘を少し重いものへと変えた。
ふと地面を見つめながら、飲み込んだ言葉を心の中で呟く。

(…今泉君、私と話してる時、「そうか」ばっかり、だし)
きっと今泉君は私のことをあまり良く思っていないのだろうなと一人で勝手に凹んでいると、隣を歩くさわっちが不満そうな口調で言った。

「名字と今泉なら、お似合いだと思うんだけどなー」
「だ、だから私は別に
「早く何か仕掛けないと他の女に取られちゃうかもよ?」
「…さわっち……」

せめてもう少し真面目に人の話を聞いて下さい。


 20140819