Pampelmuse | ナノ
 今日は、朝から酷く調子が悪かった。
いつものようにベッドの上で目を覚ますと頭が少しだけ痛かったから疑問に思いつつ体を起こすと、腰とお腹にも痛みが走る。私はしばらくベッドの上でお腹を押さえて蹲った。昨日、変な物でも食べてしまったのだろうか。ズキズキというよりはジンジンと痛むのが余計に辛い。とりあえず学校を休むわけにも行かないので制服を手に取る。
ハンガーが頭に落ちた。ひどい不意打ちだ。



「はあ……」
さっきから何度目の溜め息だろう。学校に着いてからというもの、痛みが治まることはなかった。熱はないのにどうしてこんなにも体調が悪いのか。そんな疑問は次第に苛々へと変わって、私は苛立ちを抑えきれぬまま保健室に行くことにした。


「誰かと思えば君か」

教室を出て、ふらふらした足取りで廊下を歩いていたら相変わらずドヤ顔で構えているミカドさんに出くわしてしまい私は何も言えなくなる。
(さ、最悪だ…)
こんな状況のまま、まともにこの人の相手をできる自信がない。どうやってこの人の話をスルーするかよりも、どうやってこの人から逃げるかを優先的に考えた。しかしそんな私の気持ちを知るはずもないミカドさんは腹立たしい笑顔のまま口を開く。

「学校で僕に会えるなんて、今日の君はラッキーだね」
「……」
「ついさっきサイン会を終わらせてきたんだよ」
「………」
「今日はまたいつも以上に幸の薄い表情だね。せっかく僕と話しているんだからもう少し笑っても良いんじゃない?」

(駄目だ…)
この人の話を聞けば聞くほどに頭痛も腹痛も腰痛も倍増していく気がしてならない。何より苛々が倍どころが三倍くらいになってきた。しかも今日のミカドさんはいつもより機嫌が良いらしい。その綺麗に弧を描いた口からはうんざりするくらいの言葉がポンポンと出てくる。
(全然、ラッキーなんかじゃないってば…)
気分はむしろ最悪だ。
そう心の中で毒を吐いたと同時に私のポケットからCCMが零れ落ちる。がこんと音を立てて床に落ちたCCMを、ミカドさんは苦笑しながら拾い上げた。そして私の手をすくい取りCCMを握らせる。

「ほら、そんな暗い顔ばかりしているから不幸がやって来るんだよ」
「……別に、いつもこんな顔してるわけじゃないです」
「そうだったね。でも今日は、"こんな顔"をしているだろう?」

そう言われて、心の底に溜まっていた苛々が沸騰したかのように沸き上がってきた。

「もっと笑いなよ」
「……」
「あと、ここ」

ミカドさんは平然とした顔で私の髪に触れる。
(ああ、駄目だ)
髪に触れたままの指が少し動いて、まるでミカドさんに撫でられているみたいな感覚だ。こんなこと、別にいつもなら全く嫌じゃない。それなのに今は、吃驚するくらい彼に触って欲しくなかった。
(苛々…する)

「寝癖ついてるよ」
「………さい」
「全く君は、かわい
「うるさいって言ってるでしょ!!」
「!ッ え」

驚いて目を見開いたミカドさんの手を強く振り払い、私は保健室まで全力疾走した。
せっかくミカドさんが楽しそうに笑っていたのに、私は、何をしているんだろう。何てことを言ってしまったんだろう。心の中では自分が悪いと分かっているのに、ミカドさんに八つ当たりしてしまった。
ミカドさん、傷付いだろうか。きっと、私の言葉なんて気にしないんだろうけれど。

 今日は、特別ツイてない。


 20140426