「ひとつ、聞いても良いかな」
「は…はい?」
私の頭を撫でていた手を引っ込めてからミカドさんは真剣な顔でそう切り出した。私が小さく頷いてミカドさんを見つめると、いつもよりトーンの低い彼の声が鼓膜をくすぐる。
「シンジのこと、好き?」
「…えっ」
あまりに予想外の質問に驚いたが、私は少し考えてからもう一度小さく頷いた。
「好き…というか、すごく、頼りになる優しい人、です」
「…気に入ってるんだね」
「…はい」
どうしてこんな質問をされているのかは分からないが、私の答えに嘘はなかった。シンジさんはいつもフレンドリーに話しかけてくれるし、私は恋愛とはまた違った意味でシンジさんのことが好きだ。
しかしミカドさんはあまりその答えに対し良い表情を見せず、薄く唇を開いてまた私に問う。
「じゃあ僕は?」
「へ…?」
二打撃目。私はぱちくりと瞬きをして、唖然とミカドさんを見つめる。本人の前で、というか本人にそんなことを聞かれたのは初めてだから何と答えていいのか分からないしミカドさんがどんな答えを求めているのかすら分からない。(っていうか、好きか嫌いかを聞いてるんだよ、ね?これ……)
しばらく悩みに悩む私に追い打ちをかけるかのようにしてミカドさんは続けた。
「昨日は変な態度を取ってごめん」
「…あ…いえ、平気です」
「……まだ、覚えてる?」
「え?な、何を……」
「名前」
「!!」
また名前を呼ばれて心臓がぎゅっと苦しくなった。(な、なまえ……)
目の前で少し子供っぽく笑うミカドさんは、昨日とはまるで別人で、いつも以上にきらきらして見えた。私は黙ったままミカドさんに見惚れてしまう。だけどすぐに正気に戻って、また、複雑な思いが胸をいっぱいにした。
(私、は……) ミカドさんと、もっとたくさん話したい。でも、こんな私が、ミカドさんと仲良くするなんて不釣り合いにも程がある。
(……だめ、駄目だ)
「ねえ」
「っ、……」
優しい声がすうっと耳に滑り込んできて、私はハッと顔を上げた。
「君は僕のこと、名前で呼ぶよね」
「……は、い」
「じゃあ僕も君のこと
「駄目です」
(この人を、好きになってしまったら)
「…駄目…、駄目なんです」
「え…っ」
「ごめんなさい」
私は咄嗟にミカドさんと目を合わせることなく立ち上がり、かけ足でその場から逃げてしまった。さすがのミカドさんも怒ってしまったかもしれない。ミカドさんが焦ったように何かを言っているのか聞こえたが、内容までは耳に入らなかった。
――まだ心臓が、どきどき言ってる。
あれ以上一緒に居たら、ミカドさんが言い掛けた言葉に頷いていたら、私はミカドさんを好きになってしまいそうだった。
好きになってしまうのが、怖かった。
20150123
「は…はい?」
私の頭を撫でていた手を引っ込めてからミカドさんは真剣な顔でそう切り出した。私が小さく頷いてミカドさんを見つめると、いつもよりトーンの低い彼の声が鼓膜をくすぐる。
「シンジのこと、好き?」
「…えっ」
あまりに予想外の質問に驚いたが、私は少し考えてからもう一度小さく頷いた。
「好き…というか、すごく、頼りになる優しい人、です」
「…気に入ってるんだね」
「…はい」
どうしてこんな質問をされているのかは分からないが、私の答えに嘘はなかった。シンジさんはいつもフレンドリーに話しかけてくれるし、私は恋愛とはまた違った意味でシンジさんのことが好きだ。
しかしミカドさんはあまりその答えに対し良い表情を見せず、薄く唇を開いてまた私に問う。
「じゃあ僕は?」
「へ…?」
二打撃目。私はぱちくりと瞬きをして、唖然とミカドさんを見つめる。本人の前で、というか本人にそんなことを聞かれたのは初めてだから何と答えていいのか分からないしミカドさんがどんな答えを求めているのかすら分からない。(っていうか、好きか嫌いかを聞いてるんだよ、ね?これ……)
しばらく悩みに悩む私に追い打ちをかけるかのようにしてミカドさんは続けた。
「昨日は変な態度を取ってごめん」
「…あ…いえ、平気です」
「……まだ、覚えてる?」
「え?な、何を……」
「名前」
「!!」
また名前を呼ばれて心臓がぎゅっと苦しくなった。(な、なまえ……)
目の前で少し子供っぽく笑うミカドさんは、昨日とはまるで別人で、いつも以上にきらきらして見えた。私は黙ったままミカドさんに見惚れてしまう。だけどすぐに正気に戻って、また、複雑な思いが胸をいっぱいにした。
(私、は……) ミカドさんと、もっとたくさん話したい。でも、こんな私が、ミカドさんと仲良くするなんて不釣り合いにも程がある。
(……だめ、駄目だ)
「ねえ」
「っ、……」
優しい声がすうっと耳に滑り込んできて、私はハッと顔を上げた。
「君は僕のこと、名前で呼ぶよね」
「……は、い」
「じゃあ僕も君のこと
「駄目です」
(この人を、好きになってしまったら)
「…駄目…、駄目なんです」
「え…っ」
「ごめんなさい」
私は咄嗟にミカドさんと目を合わせることなく立ち上がり、かけ足でその場から逃げてしまった。さすがのミカドさんも怒ってしまったかもしれない。ミカドさんが焦ったように何かを言っているのか聞こえたが、内容までは耳に入らなかった。
――まだ心臓が、どきどき言ってる。
あれ以上一緒に居たら、ミカドさんが言い掛けた言葉に頷いていたら、私はミカドさんを好きになってしまいそうだった。
好きになってしまうのが、怖かった。
20150123