Pampelmuse | ナノ
 今日の昼食は食堂で食べることにした。
朝と同じメンバーで食堂のテーブルに座ると、前もってパンやらを買っていたタケルとスズネとカゲトラはやっとお昼だと言わんばかりにそれぞれの昼食を食べ始める。私はそんな三人に「食券買ってくるね」と伝え、テーブルを後にした。


 今日は何となくサンドイッチの気分だった。サンドイッチが一番安いし、それに美味しいから早く買ってテーブルに戻ろうと列に並ぶ。しかし、そこで不運は起きた。
私の前に並んでいた生徒が買ったサンドイッチが最後の一つだったらしく、私の番がきた時にはもうサンドイッチのケースは空っぽになってしまっていたのだ。
(ど、どうしよう…!)
何と言うことにお金はサンドイッチを買う分しか用意しておらず、今の私には他のものを買うという選択肢がない。最悪だ。幸い後ろには誰も並んでいなかったため、悩む時間は十分にあったが肝心のお金がない。
(…お昼は諦めるしかないか……)そう思いその場を後にしようとしたその時、

「おー、お前、何やってんだ?」
「!」

聞き覚えのある声と同時に、視界に入り込んできた青い髪とカーキの制服。シンジさんだ。

「し、シンジさん」
「アレ、俺の名前知ってたのか?」
「!あ、えっと…ミカドさんがそう呼んでたので」
「あー、あの時ねぇ」

シンジさんは納得したように頷いてから、私の視線を追うようにして食券の自販機を見た。
「何か買うのか?」
「い、いや…」
「?」
「その…お金が足りなくて…」
「ブッ」
「!?」

(わ、笑われた!しかも思いっきり!)
シンジさんはお腹を抱えながら笑いを堪えている。そんな彼を睨むように見つめた私に気付き、シンジさんは体制を戻した。そして手探りでポケットからCCMを出し、私に言う。

「悪かったって」
「…別に良いです」
「何だァ、怒ってんのかよ?」

うりうりとCCMで私の頬をいじるように突いたシンジさんから逃げるようにして顔を背ければ、シンジさんは楽しそうに笑った。
「んじゃあ、ここはシンジセンパイが何か奢ってやるよ」
「えっ、いやそんな、悪いですよ…!」
「イイってイイって」
「でも、」
「ホラ。何食いたい?」
「っ……」

シンジさんは引く気がないみたいだ。私は先輩に奢ってもらうのには抵抗があったが、葛藤の末、小さな声で「サンドイッチ」と答える。シンジさんには今度何かお返しをしないと。

「ハイよ」
ぽんっと軽く投げられたサンドイッチを受け取り、私は嬉しくて頭を下げた。

「ありがとうございます」
「たまたまシルバークレジットの使い道がなかったんだよ。消費手伝ってくれて助かったぜ」
「そうなんですか?」
「ああそうだ」
「それなら良かったです」
「そういやお前」
「?」
シンジさんは私の顔を見つめながら問うた。
「名前、何だっけ?」
「あ、名字名前です」
「名前な、リョーカイ」
「はい!」

それからもう一度だけシンジさんにお礼を言い、私は三人の元へと急いで戻る。
帰りが遅かった私を心配していたのか、スズネは「また事故に巻き込まれたのかと思って心配してたんやで!」と私の背中を叩いた。カゲトラとタケルも何かあったのかと聞いてきたが、笑顔で「何でもないよ」と返す。
 シンジさんが買ってくれたサンドイッチは、いつものサンドイッチよりもすごく美味しかった。


 20140512