Pampelmuse | ナノ
「何か悩みでもあるのか?」

 朝。隣を歩くカゲトラが突然そんなことを言い出した。私は、少し前をはしゃぎながら歩いているスズネとタケルに向けていた視線をカゲトラに向ける。

「なんで?」
「いや、昨日の夜から少しボーっとしているように見えたんだが…俺の気のせいかもしれない」
「!」

カゲトラにそう言われ、私は昨日のことを思い出した。
 私はあれからミカドさんと別れ寮に戻っても、しばらくはミカドさんのことばかり考えていたのだ。シンジさんの言った"ミカドのお気に入り"という言葉がぐるぐると頭を回ってどうしようもなくて。ミカドさんは別に私に興味なんかないのだと思っていたし、あのミカドさんが私なんかを気にかける訳がない。私に強く当たられたことを全く気にしていなかったのが、その証拠だと思う。だけどそんな私の考えとシンジさんの言っていたことは少しだけ矛盾があった。
(そんなことをずっと考えていたなんて…情けなくて言えるわけがない)

「…名前、」
「!えっ、な、なに?」

悶々と悩んでいた私に、カゲトラはさっきよりも小さな声で問い掛けた。

「もしかして、西条ミカドのことか?」
「!!」

そのカゲトラの推理はまさにどんぴしゃで、私は足を止めて固まってしまう。(な、何か言って誤魔化さないと…!)必死に否定の言葉を考えるも、浮かんでこない。しばし長くなってしまった沈黙に耐えきれず、私は大きな声で言った。

「ち、違う違う!」
「違うのか?」
「絶対違うからね!」
「あ、ああ…分かったから落ち着け」

思わず熱くなってしまった私の背中を、カゲトラは優しく叩いて宥める。それにより落ち着いた私は、少し俯きながら小さく口を開いた。

「き、昨日はちょっと体調が悪かったから、そのせいかな」
「そうか、それなら良いんだが…体調はもう大丈夫なのか?」
「うん。大丈夫だよ」

心配してくれてありがとうとカゲトラにお礼を言い、私もスズネとタケルの元へと走る。私が混ざったことで更に騒がしくなった私たちの朝はとても楽しくて、不運とは似ても似つかないものだった。



 20140512