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 寮に入るとすぐにカイトを見つけた。

「カイト…!」

椅子に座ったまま俯いているカイトに私は駆け寄って声を掛ける。返事がない代わりに、カイトの視線がゆらりと私に向けられた。どきりと心臓が嫌な音を立てて、じわじわと鼓動を速めていく。薄く笑ったカイトが言った。

「なに。もしかして心配してついて来たの?」

いつもなら自意識過剰なんじゃないの?と言ってやりたいような台詞だったが、今はそう言うわけにもいかず私はカイトから目を逸らす。カイトは少し驚いたような顔で私を見つめた。しかしその顔は途端に何かを思い出したように苛立ったものへと変わる。

「さっき、タダシと何を話してたんだい」
「! …え…?」

私が焦ったようにカイトに視線を戻すと、カイトは私を睨んだまま目を逸らそうとしなかった。鋭くてまるで刃のようなカイトの目に恐怖すら感じる。何て答えたら良いか分からずにいるとカイトは強く私の腕を掴んだ。突然のことに抵抗しようと体を引いたがカイトは離してくれない。鼓動がまた速度を上げた。

「…離し、て」
「嫌だね」
「っ……タダシとは、ただ普通に、話しただけだよ」
「…普通に?気まずいままの元恋人同士が?」
もうちょっとマシな嘘つきなよ、と嘲笑うように言われてしまい私は口をきつく結ぶ。あの時タダシに言われた言葉が頭に浮かんだ。

『カイトと、付き合ってるのか』

私は薄く口を開き、か細い声を絞り出す。

「……カイトと…付き合ってるのか、って…聞かれた」
「!」

沈黙が、やけに長く感じた。カイトはしばらく何も言わずにゆっくりと視線を下ろしていく。控えめな時計の音がしっかりと耳に響いていた。
「……カイト、は…」

私はカイトに聞こえるか聞こえないかくらいの声で言う。

「何で私と、付き合ってるの?」

時が止まってしまったかのように、静けさが増した。


 20140312