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 あれから数分が経った時、ウォータイムがまだ終わっていないのにカイトは一人で席を立ってモニター室を出て行ってしまった。
残された私たち三人は頭にハテナを浮かべる。ブンタは「トイレかなぁ」なんて首を傾げていたけど、タダシは何も言うことなくカイトが出て行ったドアの方を見つめているだけ。バタンとドアが閉まると何事もなかったかのようにスクリーンに視線を戻した。
(どうしたんだろう…)ブンタの言う通りただのトイレかもしれない。だけど私は何となくカイトが気になってしまって、音を立てないようにゆっくりと立ち上がる。

「名前?」

ブンタが私に気付いて声を掛けてきたから、私は「トイレだよ」とだけ言って普段通りの笑顔で笑いかけた。するとブンタも安心したように「そっか」と返す。タダシの視線が痛いくらいに私に突き刺さっていた。


「カイトの所に行くのか?」


「!!」
突然耳に入ったタダシの声に、私は驚いてタダシを見つめる。タダシは私を睨むわけでもなく、だからといって優しい顔でもない、どこか不貞腐れたような表情だった。不貞腐れた、なんて表現は考えすぎだろうか。
タダシの言葉にブンタも驚いているようで、二人はそれぞれ違う表情で私を見つめた。

「……トイレだよ」

私はそんな二人から逃げるように目を逸らして、ドアの方と向かう。私は二人の視線、というよりもタダシの視線が怖くて振り返ることなどできずにいた。

やっとの思いでモニター室を出てしばらく廊下を歩いていたが、カイトの姿は見当たらない。もう寮に戻ってしまったのだろうか。私は少し駆け足で寮へと向かった。そこにカイトがいるかも分からないというのに。
 足を進めている間、ずっとタダシの言葉が頭をぐるぐる回っていた。

『カイトの所に行くのか?』

(っ……)もし、もしも私がそうだと首を縦に振っていたら、タダシはなんて言ったのだろう。どんな顔をしたのだろう。そんなことばかりが気になって仕方が無い。タダシとはもう終わったのに。ていうか、振られたのに。どうしてタダシはカイトと私のことを気にしているのだろう。もしかして、………いや、それはない。私はぶんぶんと首を振って頭に浮かんだ考えを追い払う。寮はもうすぐそこだ。



 20140311