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「……カイト」

すぐ隣にいるカイトにだけ聞こえるような声で、私はカイトを呼んだ。しかしカイトは私なんか無視してずっとタダシを見つめている。どこか睨むような冷たい目付きだった。そんな目付きに気付いた私は少しだけ焦って、思わずカイトの腕を掴む。

「やめて、カイト」

カイトはすぐに視線をタダシから私に移した。私は俯いたまま、もう一度しっかりと「やめて」と呟く。どうして自分がそんなことを言ったのかすら分からなかった。
(…私、何言ってるんだろう)
自己嫌悪みたいなものが頭を駆け巡って、私はゆっくりとカイトの腕から手を離す。重力に逆らうことなく落ちていった手を、カイトは無言のまま見つめていた。

 しばらく沈黙が続いた後、お互いに何も言うことなく結局休み時間は終わってしまう。うるさいくらいにチャイムが鳴り響き、私たちはそれぞれ自分の席へと戻っていった。




 放課後を知らせるチャイムと同時に、生徒たちはウォータイムの準備を始める。
今日は第一小隊、第二小隊、第四小隊のみの出撃と指示されたため私たち第五小隊はまとまってモニター室へと移動しようとしていた。
長い廊下を四人で歩くのは、別に珍しいことではない。今までもこうして出撃命令がない日は四人でモニター室へと歩くのが当たり前だったから。しかし、今日はどこか、いつもと違って何とも言えないような雰囲気だった。
いつもなら私とタダシがはしゃいでいるのを見てカイトが呆れていたし、ブンタはそんな私たちを見て苦笑していたり一緒に笑ったり。こんな、誰も喋らず黙ったまま長い廊下をただひたすら歩いているなんて、居心地が悪くてたまらない。

やっとの思いでモニター室に辿りつくと、先頭を歩いていたカイトが真っ先にドアを開けて中に入っていく。ブンタもそれに続きモニター室へと入っていった。私もその後を追って中へ入ろうとする。と、急にタダシが私の腕を掴んだのだ。

「っ え、」

思わず漏れた声と同時に私の手がドアノブから離れ、バタンと音を立ててドアが閉まる。すぐ後ろに立っていたタダシの顔を、思わず凝視してしまった。久しぶりのタダシの顔に胸が締め付けられるような気分だ。

「…た、タダシ…?」
「カイトと、付き合ってるのか」
「!」

何も考えることができなかった。ただただ固まったまま何も言えずにタダシの顔を見つめる。掴まれた腕に力が込められて、私は思わず小さく声を漏らしてしまう。
「!…っ、悪い……」
おそらくそれは腕を掴んだことに対する謝罪だろうか。ぱっと私の腕から手を離したタダシは、どこか焦っているようだった。突然の展開に頭がついてこない。どきどきと心臓が音を立てて、少しだけ息が苦しい。(タダシ……)

「……あ、あのさ、タダ
「タダシ、名前、大丈夫か?」
「!! ……ブンタ……」

私の声を遮ったのはブンタだった。控えめに開けたドアからひょっこりと顔をのぞかせて心配そうに私たちに尋ねたブンタに、私はすばやく作った笑顔を浮かべる。

「うん、大丈夫だよ。ごめんね」

サッとタダシに背を向けてブンタに話しかけながら、私はモニター室へと入った。それからすぐにタダシも続いてモニター室に入り、カイトの隣の席に並んで腰を下ろす。まだ心臓がうるさく音を立てていた。



 20140310