koiNOtasatutai | ナノ
 カイトと付き合い始めて一週間が経とうとしていた。もちろん私がカイトに本気で恋をするわけもなく、だからといってタダシと何かあったわけでもない。何だか空白のような日々だった。

そういえば、別れたあの日から今日までタダシと言葉を交わしたっけ?目を合わせたっけ?タダシは何を考えてるか分からないし、それが怖くて私はタダシの顔を見ることすらままならないし。そりゃあ目が合うわけも言葉を交わすわけもないか。
 授業中、ぼんやりと窓の外を見つめた。いつも以上に平和な空に、何だか悲しくなってしまう。私とタダシもこの空みたいにずっとずっと平和に続いていければ良かったのに、とか、そんな馬鹿みたいなことを考えては深い溜め息をつく。
なんか、なにも考えたくないな。




「さっきは何で溜め息なんかついてたんだい」
「! ……カイト」

授業が終わるとすぐにカイトは私の隣に立ってそう問いかけてきた。私はカイトに顔を向けて、「別に何でもないよ」とだけ返す。我ながらすごく自然な返しだ、と思ったのに。

「もう少しくらいマシな嘘ついたら?」
「えっ」
「顔に書いてあるよ。私今すごく悩んでます、って」

カイトがそう言いながら私の頬をゆっくりと撫で上げる。その途端私は
ガタン!
とすごい音を立ててカイトから離れてしまった。突然の大きな音に吃驚したクラスメイトが私とカイトに視線を向ける。行き場を無くしたカイトの手は、未だに宙に浮いたままだ。
(う、うわ、やっちゃった)
カイトも少し驚いたように私を見つめた。ああもう、何でこんな目に合わなくちゃいけないんだ。自己嫌悪に近かった感情が次第にカイトに対するの苛立ちへと変わっていく。私は掌に汗をかきながら、動揺により若干震えた声でカイトに言った。

「な、悩んでなんか、ないから」

そう言った直後のカイトの顔を見て、私はせめてもう少しだけ嘘が上手くなりたいと思った。

 私たちに視線を向けていた皆は何事も無かったかのようにお喋りを再開する。私とカイトは何だか気まずい空気のまま、しばらくその場から動かずに突っ立ったままだった。しかし不意にカイトの視線が私から違うものへと移動する。私はその視線をなんとなく追ってしまったのだ。




無表情のままのカイトの視線の先には、教室の端で唖然と私たちを見つめていたタダシがいた。



 20140307