koiNOtasatutai | ナノ
 タダシと別れて始めての朝は、なんか、意外とあっさりしたものだった。

「眠い」

だらしない独り言を零して、子供でもないのにごしごしと目を擦る。ふと昨日のことが頭に浮かんでは、溜息をつくわけでもなくボーっと身体を起こしたまま掛け布団を見つめた。

『別れてくれないか』

(……くれないか、って)
何だか辛そうな顔してたな、タダシ。結局、タダシに理由を聞くことができなかった。私はタダシに何かしてしまったのだろうか。でもそんな覚えはひとつもない。自覚がないのが一番タチが悪いとよく聞くが、本当にその通りだと思った。私、最低なのかもしれない。




 結局ぼんやりとした頭のまま学校へと向かっていると、校門をくぐった所でカイトに会った。カイトは私に気付くと足を止めて声を掛けてくる。

「おはよう名前。今日はいつもより早いじゃないか」
「……うん」
「…随分と沈んでるみたいだね。タダシと喧嘩でもしたのかい?」

だったらさっさと仲直りしなよ、と呆れたように笑うカイトに私は静かな声で事実を告げた。

「別れた」

するとカイトは呆然と私を見つめたまま眉間に皺を寄せる。まるで"何言ってんの?"と言わんばかりの表情でカイトは黙り込んだ。(あれ、カイトってこんな顔もできるんだ…)予想通りというか予想外というか何ともいい難いカイトの反応に私まで戸惑っていると沈黙を破ってカイトが言う。

「どっちから?」
「…タダシ」
「つまり名前はフラれたってわけか」
「!!」

何て奴だ。きっとその言葉は今一番私にダメージを与えるものなのに。それをあっさりと口にするなんて。掛ける言葉なら他にいくらでもあるはずだ。それなのに…と悶々と考えていたが、私は何とか気持ちを持ち直して
「…ウォータイムに支障をきたすことだけはしないから、大丈夫」
とだけ言う。そしてもうカイトの前から立ち去ってしまおうと背を向けた時だった。カイトがいきなり私の腕を掴んで言う。

「待ってよ」

カイトの低い声がしっかりと耳に届いて少し驚いた。私がちらりと振り向いて「な、なに?」と聞くとカイトはとんでもないことを言い出したのだ。

「だったら僕と付き合ってくれない」
「………、はい?」

カイトが何を言ったのか私にはさっぱり分からなかったから聞き返してみればカイトは表情ひとつ変えずに
「タダシと別れたんだろ?なら僕と付き合っても何ら問題はないよね」

いや問題だらけなんですけど。

「か、カイト、大丈夫?主に頭とか」

ただただ私を真っ直ぐに見つめているカイトにそう言ってやるとカイトはいつもの人をどこか小馬鹿にしたような笑顔で返す。

「もちろん今はまだ本気じゃなくて良いさ。言うなれば"遊び"かな。それで良い、だから僕と付き合ってよ名前」
カイトは風邪でも引いているのだろうか。いや、風邪よりタチが悪い。私はカイトから目を逸らした。

「…タダシと別れたからカイトとなんて、そういうの…よくないと思う。タダシにも失礼だと思うし、私はそんなこと絶対に
「へぇ。名前はそうやって周りの目を気にして怯えることしかできないのかい?」
「! なっ…」
「残念だな。同じ小隊の仲間として恥ずかしいよ」
「っそ、そんな言い方、」
「じゃあ付き合うよね?」
「!!」

どうしてカイトはこんなにも頑なに私に"付き合え"と言うのだろう。普段のカイトからは考えられない台詞だ。ありえない。だけど言われっぱなしはムカついたから私はカイトを睨むように見つめて
「…いいよ。でも絶対本気になんてならないから」
と言い放つ。



 こうして、私の二度目の恋が始まったのだ。



 20140303