夜は嫌いではなかった。静かで綺麗で、だけど少し不安になる。
私は読んでいたLBXの本を閉じてから窓の外へ目をやった。
『好きになれなくてごめんね』
自分が、自分のしたことが正しいのか間違っているのか、分からない。幸せだったはずの日々の中で、私は全てを失ってしまった。今度は自分から、突き離してしまった。
「っ……う、」
急に吐き気がしてベッドから起き上がると、なぜか涙が溢れてきて肩から力が抜ける。ぼたぼたと零れ落ちた涙が白いシーツを汚した。ひとつ、ふたつ、シーツに染みが増えていくのをぼやけた視界に捉えて、思わず唇を噛み締める。気付けば吐き気のことなんて忘れていた。
どこかで聞いたことがある。
本当に辛い人は、本当に悲しくて大丈夫じゃない人は、涙すら出てこないんだっけ。
(……じゃあ、)
この涙は一体、何なんだろう。考えれば考えるほどに涙が止まらないから私は上着を手に取って部屋を出た。向かう先は、決めていない。どこに行こう、どこに行けばこの涙が止まるだろう。
たくさん考えて歩くうちに、もう、疲れて立ち止まってしまった。
「……、…」
ゆっくりと顔を上げるとそのには、見慣れたテーブルと椅子。談話室だ。私は考えるよりも先に近くの椅子に腰を下ろし、そのままテーブルに顔を伏せた。
(……つめたい)
誰もいない談話室は思ったよりも寂しくて、私はうっすらと目を細める。そういえば少し前にブンタと話したのも、ここだっけ。
『名前の気持ちは、無駄じゃない、ッその気持ちを…捨てないでくれ…!!』
(……違うよ。ちがう)
私の気持ちは、きっとすごく無駄に近い。だって私がタダシを好きでも、まだ一緒にいたいと思ってても、それはもうどうにもならないじゃないか。タダシは私と付き合うことよりも、私を守ることを優先してくれた。私を生かしてくれた。でも、それは、ひどいことだ。何よりも誰よりも。そう、私からタダシを奪ったあの子よりもタダシはひどい人で、ブンタの言っていた"理由"もひどいものだった。
いつかタダシが言ってくれた「好き」という言葉も、抱き締めてくれた大きな手も、何もかも、記憶の中から消し去ってしまいたい。私を幸せにしたタダシとの思い出を、忘れてしまいたい。そうすればきっと、こんな涙を流す必要もないのに。
(そう…、そうだ、)
いっそもう、カイトとの記憶も、ぜんぶ、
『一緒にいたい』
「っ……うあ、ぁ…ッう」
ぜんぶ、全部、全部全部全部。
全部捨ててしまいたい、もう傷付くことから逃げてしまいたい、そう思っているのに本当は誰かが隣にいてくれないと不安で不安で死んでしまいそうで。でも誰でも良いわけじゃなくて、本当はちゃんと自分でも分かっていた。本当は誰に隣にいてほしいのか、誰を「好き」だと言いたいのか、
「――……ト、」
誰に、愛してほしいのか。
『好きになれなくてごめんね』
「好きだよ、カイト」
20141130
私は読んでいたLBXの本を閉じてから窓の外へ目をやった。
『好きになれなくてごめんね』
自分が、自分のしたことが正しいのか間違っているのか、分からない。幸せだったはずの日々の中で、私は全てを失ってしまった。今度は自分から、突き離してしまった。
「っ……う、」
急に吐き気がしてベッドから起き上がると、なぜか涙が溢れてきて肩から力が抜ける。ぼたぼたと零れ落ちた涙が白いシーツを汚した。ひとつ、ふたつ、シーツに染みが増えていくのをぼやけた視界に捉えて、思わず唇を噛み締める。気付けば吐き気のことなんて忘れていた。
どこかで聞いたことがある。
本当に辛い人は、本当に悲しくて大丈夫じゃない人は、涙すら出てこないんだっけ。
(……じゃあ、)
この涙は一体、何なんだろう。考えれば考えるほどに涙が止まらないから私は上着を手に取って部屋を出た。向かう先は、決めていない。どこに行こう、どこに行けばこの涙が止まるだろう。
たくさん考えて歩くうちに、もう、疲れて立ち止まってしまった。
「……、…」
ゆっくりと顔を上げるとそのには、見慣れたテーブルと椅子。談話室だ。私は考えるよりも先に近くの椅子に腰を下ろし、そのままテーブルに顔を伏せた。
(……つめたい)
誰もいない談話室は思ったよりも寂しくて、私はうっすらと目を細める。そういえば少し前にブンタと話したのも、ここだっけ。
『名前の気持ちは、無駄じゃない、ッその気持ちを…捨てないでくれ…!!』
(……違うよ。ちがう)
私の気持ちは、きっとすごく無駄に近い。だって私がタダシを好きでも、まだ一緒にいたいと思ってても、それはもうどうにもならないじゃないか。タダシは私と付き合うことよりも、私を守ることを優先してくれた。私を生かしてくれた。でも、それは、ひどいことだ。何よりも誰よりも。そう、私からタダシを奪ったあの子よりもタダシはひどい人で、ブンタの言っていた"理由"もひどいものだった。
いつかタダシが言ってくれた「好き」という言葉も、抱き締めてくれた大きな手も、何もかも、記憶の中から消し去ってしまいたい。私を幸せにしたタダシとの思い出を、忘れてしまいたい。そうすればきっと、こんな涙を流す必要もないのに。
(そう…、そうだ、)
いっそもう、カイトとの記憶も、ぜんぶ、
『一緒にいたい』
「っ……うあ、ぁ…ッう」
ぜんぶ、全部、全部全部全部。
全部捨ててしまいたい、もう傷付くことから逃げてしまいたい、そう思っているのに本当は誰かが隣にいてくれないと不安で不安で死んでしまいそうで。でも誰でも良いわけじゃなくて、本当はちゃんと自分でも分かっていた。本当は誰に隣にいてほしいのか、誰を「好き」だと言いたいのか、
「――……ト、」
誰に、愛してほしいのか。
『好きになれなくてごめんね』
「好きだよ、カイト」
20141130