koiNOtasatutai | ナノ
 人は、恋は、残酷だ。
私は教室には戻らずそのまま保健室へと足を運ぶ。こんな顔、誰にも見られたくなかった。というよりも、見せられるようなものじゃない。
(…体が、重い)
まるで何かが足に絡まっているかのように、一歩一歩が重くて辛い。もはや自分には泣く気力すら残っていないらしく、涙は一滴も出てこなかった。やっとの思いで保健室に辿り着き目の前のドアをノックすると、日暮先生の「入っていいぞ」という声が返ってくる。脱力しきった手を伸ばしてドアを開けると、こちらを見つめる日暮先生と目が合った。

「…名字か。どうした?」
「……気分が悪い、…ので、………」

(あ、だめだ、)
頭がぐらぐらして、息が苦しい。何か言わなくちゃと思い口を開いても、声にならない声が口から漏れて消えていくだけだ。私がそのまま黙り込んで俯くと、日暮先生は「少し寝るか」と言いベッドの用意をしてくれた。

「……ありがとう、ございます」
「吐きそうな時は言えよ」
「…はい」

何とかベッドに横になり、そのまま布団に潜り込む。ひんやりとした布団が、私の体温を吸い取るようにして熱を持って行く。やっと、息苦しさは無くなったようだ。

『ずっと、期待してたの?』

しっかりと耳に残ってしまったあの子の声が、また頭の中で私を責めた。
 タダシも、ブンタも、そしてカイトも、私には何も言ってくれなかった。タダシは私のために、そして自分のために私を突き放したんだ、と思う。ブンタはきっと私が傷つくのを避けるために、言わなかったんだと思う。(…じゃあ、カイトは、)
カイトはこういうの、言わないタイプなんだと知った。というよりもまず他人の恋愛沙汰に首を突っ込むようなタイプじゃないと思ってたのに、少し意外だ。ブンタの言っていることは正しいとそう言った時、カイトの目は、すごく、怖かった。本当にタダシのことを憎んでいるような、そんな目。

「……わたし、は、……」

ずっと皆の中で、"可哀想な子"だったのかな。
何も知らずにただ傷付いて泣くだけの、哀れで不憫な女だったのかな。そう考えれば考えるほどに、タダシだけじゃなくてブンタやカイトのことも嫌いになってしまいそうだった。


『そんなにタダシのことが好きなのね』

(好きに…きまって、る……)だってタダシは私にたくさんの幸せをくれた大切な人で、嫌いになんか、なるわけがない。そう、思ってた。だけど。

「っう、うぁ……ッぐ、」

だけど。

「――らい…っ、き、らい……」



 嫌い。大嫌い。
あの子に脅されたからって簡単に私を突き放したタダシも、全部分かった上で私に「タダシを好きで居続けろ」と言ったブンタも、何も言ってくれなかったカイトも、そして何より、

『…カイトに、慰めてほしい、よ』


いつだって誰かに助けてもらわないと生きていけないような弱い自分が、大嫌い。



 20140821