koiNOtasatutai | ナノ
 タダシは可愛いのに格好良くて優しくて真面目で、私はそんな彼のことが大好きだった。かけがえのない存在とさえ思っていたのに。いつもと同じように授業とウォータイムが終わり、少し薄暗くなった空の下で、タダシが言った。

「別れてくれないか」

ぐさりと鋭い刃のような言葉が私の胸に突き刺さる。あれ、私たち、ついこの前まで大好きだよって笑い合ってなかったっけ。
シンと静まり返った帰宅路で、私はただタダシを見つめたまま呆然と立ち尽くす。タダシに別れを告げられてからどのくらい時間が経ったのか分からなかった。そのうちタダシの顔さえ見れなくなって、私は涙すら出てこない目を強く擦る。

「そ、そっ、か」

こういう時ばかり掠れた細い声が出てしまって、ああ、これじゃあタダシに聞こえないじゃないか。駄目だ、もっとちゃんと、

「あ、明日から、また、ウォータイム……」

"頑張ろう。"
 それだけ言って、私はその場から走って逃げた。その時はすごくすごく焦っていて絶望していて、自分でも何を言ったのかよく覚えてなかったくらいなのだ。タダシの横をがむしゃらに走って通り過ぎた時、ふわりと、大好きな匂いに包まれた。タダシの匂いは、優しくて、でもちょっとだけ冷たくて。この匂いを、これからも好きでいて良いのだろうか。ていうか、明日から、どうすればいいんだろう。

 これは、別れたってことで良いん、だよね?




恋の他殺体


 20140301