koiNOtasatutai | ナノ
 私とカイトが教室に到着すると、ジェノックの教室は何やらざわついているようだった。そのざわめきに混じって聞こえたのは、誰かが揉めているような荒々しい声。どうしたのだろうと首を傾げながらも教室に入ると、教室のど真ん中で睨み合うタダシとブンタが一番に目に入った。そしてそれを避けるようにして教室の端に立つ皆。何が起きているのか分からずにカイトを顔を見合わせれば、ユノが慌ててこちらに駆け寄った。

「名前、カイト!」
「ユノ、何があったの?」
「よく分からないんだけど、急にブンタがタダシを怒鳴ったの。そしたらタダシも喧嘩腰になっちゃって…」

ユノは学級委員としての責任もあるようで、どうしようと焦っていた。私も突然のことに動揺してしまい、思わずカイトに視線を向ける。
「……!」
カイトは二人をジッと見つめていた。まるで二人が揉めている原因が何なのかを知っているとでも言わんばかりの目で。そんなカイトの横顔に、私は目を見開いた。
「か、カイ…」

「悲しませて傷付けてること気付けよ!!」

私がカイトに声を掛けようとしたのを遮って、ブンタがそう怒鳴る。ブンタは普段から大人しい方だし、性格も温厚で滅多に怒ったりしない。そんなブンタの怒鳴り声に、ますます教室が騒がしくなる。
 とにかく今は二人を落ち着かせないと。そう思い、私は二人の元へと走った。しかし突然カイトに腕を掴まれ、阻止されてしまう。

「カイト…?」

カイトは黙ったままだった。それでも私の腕を掴む手に込められた力は緩まず、私は足を止める。

「なんで止めるの」
「必要がないからだ」
「!」
「ブンタの言ってることは正しいさ」
「…どういう、こと……?」

その問いにカイトが答えることはなく、カイトはきつく口を紡いでタダシを睨みつけていた。
「………」
そんなカイトの顔を見て、私はこの前みたいに「やめて」と言うことはできなかった。
(ブンタの言っていることが、正しい…?)
おそらくブンタの言った言葉から考えると、タダシは誰かを悲しませ傷付けている、ということになる。その"誰か"が誰なのかを考えてみると、ひとつの心当たりに辿り着いた。



「もう、諦めるしかないみたい」




(悲しませて…傷、つけた……)
私の中にある違和感が、少しずつ、確信へと進んでいく。カイトもタダシもブンタも知っている、私だけが知らない"何か"。それが一体何なのか、もう少しで気付けるような気がした。

 しばらく二人が揉めた末、いつの間に教室に入ってきた美都先生が二人を止めて教室の雰囲気は最悪のまま朝のホームルームが始まった。