koiNOtasatutai | ナノ
 一難去ってまた一難。そんな言葉を聞いたことがある。

あれから私とカイトは肩を並べて商店街を歩いていた。日も暮れてきたし少しでも早く寮に戻りたいと思うのとは裏腹に、やけにゆっくり歩くカイトに釣られて私もゆっくり歩いてしまう。

「…あのさ、カイト」

仲直りをしたというにも関わらず気まずい沈黙は相変わらずで、私はそんな沈黙を追い払うようにしてカイトに笑い掛けた。

「今日の夜、皆でトランプしようよ」
「…トランプ?」
「うん、何だったらLBXバトルでもいいし。ブンタとタダシも呼んでさ」
「名前はそれでいいのかい」
「……、え?」

どうせならこの調子で第五小隊の雰囲気も良いものに戻したい。そんな思いで提案したものの、カイトの言葉に私は唖然としたまま口を閉じる。カイトは私に何かを言いたいようだ。だけどそれが何なのか分からないし、カイトも言葉にしてくれない。
(……なんで…)

『タ、タダシは…っ…!!』

あの日のブンタの顔を見て以来、やけに心がもやもやする。気のせいだろうか。うまく整理できずにいたけど、結局ロシウスの女の子のこともよく分からないままだ。タダシが私を気に掛けているように見えるのも、きっと気のせいじゃない。
 私の知らないところで、私の知らない何かが、少しずつ動いているようだった。
(私は…何かすごく重要なことに、気付いていないような気がする)
それが何かは分からないし、タダシのことなのかブンタのことなのかカイトのことなのか、はたまた私のことなのか。分からないことだらけだけど、確実に分かることが一つある。

(きっとタダシやブンタは、私の知らない何かを知っているんだ)
おそらくそれは、カイトも同じ。

「…皆で笑えるなら、それがいいよ」
「……そう」

カイトの顔はよく見えなかった。何となく、見えなくて良かったのかもしれないと思った。カイトは、機嫌が悪い時くらいしか表情に出さないから。

「そういえば、昨日キャサリンがくれたクッキーがまだ余ってるから」
「へえ」
「一緒に食べようよ」
「…別に良いけど」
「カイト、クッキー好き?」
「普通だよ、普通」

そんな他愛もない話をしながら商店街を抜けると、少し向こうにある木の影に二人の人物が立っているのが目に入った。私は何となく足を止めて、その二人をじっと見つめる。それに気づいたカイトも同じように足を止めて、「どうかしたのかい」と聞いてきた。

「………」

私はただ黙ったまま、立ち尽くす。二人の人物が誰なのか、すぐに分かってしまった。
真っ先に目に入った、水色の髪の男子生徒と、白い制服の女子生徒。見間違いだと思いたい。(だって、あれは…)

木の影で二人きりで話しているのは、タダシと、あの日のロシウスの女の子だった。


 20140506