koiNOtasatutai | ナノ
「いっ、」

 それはいつもと何ら変わらず、ユノと二人で廊下を歩いている時のこと。
何人かの女子生徒とすれ違った時、急に右足に激痛が走った。おそらく誰かに足を踏まれたのだろう。私が思わず漏らした声に、ユノは立ち止まって心配そうに私を見た。

「名前、どうしたの?」
「あ、…ううん、何でもない」

ユノに心配を掛けないよう笑顔で「大丈夫だよ」と言ってから、私はちらりと振り返る。すると、
「…!!」
先ほど擦れ違った女の子のうちの一人が、すごい形相で私を睨んでいたのだ。しかしバチリと目が合うと彼女はすぐに目を逸らしてそのまま他の女の子たちと去って行く。彼女はロシウスの制服を着ていた。それくらいしか、彼女のことは分からない。どうして足を踏まれたとか、どうして睨まれたとか、謎だらけのまま私はユノと廊下を後にした。




 今日のウォータイムでの出撃命令がなかった私たち第五小隊は、モニター室へと向かっていた。
前よりも更に悪化した空気に、さすがのブンタも何も言えなくなってしまったようで。カイトもタダシもひたすら無言で歩いているし、心無しかいつもより早足な気がする。もちろん私が何か言って明るくなるような雰囲気でもなく、遂に俯いてしまったブンタに罪悪感が沸いて、私は咄嗟に口を開いた。

「そういえば」
「ん?なんだ?」

当たり前だが、反応したのはブンタだけだった。

「さっきね、知らない子に足踏まれたんだけど私なにかしちゃったのかな」
「それって…他の仮想国のヤツ?」
「うん。ロシウスの子なんだけど…」

どうも覚えがないんだよね、と言うとタダシがひどく驚いたような顔で私を見ていることに気が付く。ちらりとタダシに視線をやると、ばちっと目が合ってタダシはすぐに目を逸らした。
(……なんで、だろう…)
タダシは最近、すごく変だ。この前だって私とカイトのことを気にしてるみたいだったし、でもそれ以外のことでは決して私に話しかけようとしない。こちらもこちらでどう反応して良いのか分からないから余計に困る。…それに……

(…タダシ……)
タダシに目を逸らされたことで少しだけ傷付いた心が、ずきずきと痛みを感じた。私はぎゅっと制服の裾を握りしめる。

 ああ、早く今までの第五小隊に戻りたいな。


するとブンタがそんな私を心配しながら、「また何かされたらすぐ言えよ!」と言ってくれた。



 20140405