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 名前とアラタが楽しそうに話しているのを見ると、名前のこともアラタのことも憎らしく思う自分がいた。名前のことを好きなわけではないはずなのに、やっぱりアラタと話している姿を見ると苛々する。どうしてこんなに名前を独り占めしたいと思うのか、その答えが分からないことも憎らしかった。

「ヒカル、あとで名前とゲームする約束してるんだけどお前も来ないか!?」

騒がしいアラタの声が僕の耳に入ってきて、思わずアラタを睨んでしまいそうになる。(約束、だと?)また二人を憎らしく思っては自分が嫌になった。アラタは黙り込んだ僕を首を傾げながら見つめて、「嫌なら無理にとは言わないけど」と付け加える。そうだ、きっぱり断れば良い。そもそも僕がゲームなんてすると思った君たちが馬鹿なんだ。しかし僕が断れば名前とアラタは二人でゲームをすることになるのだろうか。だとしたら、どうも気に食わない。

「ヒカル?」

不可解そうに僕の顔を覗き込んだアラタにハッとして、「あぁ…」と小さく声を漏らす。
そうだ。どうせゲームなんかやっても楽しくない。それに僕は勉強もしなくちゃいけないんだ。ここはやはり断るのが当然だろう。

「僕はいい。君たちだけで楽しんでくれ」
「…ヒカル、何で怒ってるんだ?」
「怒ってるだと…?」
「だってスゲー怖い顔してるぞ」
「……別に怒ってなんかない。それより早く、…!……」
「?」

(早く、名前のところに行けばいいじゃないか)
僕はそう言おうとしたけど、どうにも口が動かない。なんだ、何だこれは。僕はどうしてこんなにも苛々してるんだ。断ったのは自分じゃないか。だったらアラタが名前のところに行くくらい、どうってことないはずだ。
(でも……)

何も言えないまま僕は俯く。アラタはそんな僕を心配して「大丈夫か?」と聞いてきたが、そんなのに答える気力すらない。
全部が気に入らなくて、心の底から憎いんだ。僕は名前のことなんて好きじゃないのに、それなのにこんなにも名前のことを気にして名前を独り占めしたくて、アラタに嫉妬までして。ずっと自分の心の端っこに置かれた"気持ち"を認めてしまいそうになって、僕はぶんぶんと首を振る。

「………何でもない。それじゃあな」
「?あ、ああ、またな」

アラタが部屋から出て行って一人になった僕は、思いきりベッドに倒れ込んだ。
もんもんとした気持ちがいつまで経っても胸から消えない。少しずつ、本当に少しずつ"気持ち"が大きくなるのを感じながら、僕は枕に顔を埋める。


「くそっ……」

 僕をこんなにも惚れさせた名前が、憎くて仕方ない。



 20140129
星原ヒカル*好きな人を憎む



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