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「今日すごい寒いね」

いつもより小さな声で名前が白い息を零した。僕はそんな名前を横目で見つめながら「そうだね」と返す。今朝の天気予報では雪が降ると言っていたからそりゃあ寒いのも当然だ。僕は両手を軽く擦り合わせながらそこに白い息を吹き掛ける。こうすれば少し温かい。

「雪、積もるかな」
「これだけ寒ければ積もるかもしれないよ」
「そっかぁ。もし積もったらもっと寒くなっちゃうね」

困ったように、だけどどこか嬉しそうに笑ってそう言う名前に釣られて僕も笑う。
それからしばらく歩くと、不意に名前と僕の指先が触れ合った。僕らはお互いに少し驚いて、視線を合わせる。

「あ。ごめん」
「こ、こっちこそ」
「………」
「………」
「……あ、あのさ、和人…」

名前がフッと僕から視線をずらして小さく口を開く。そんな名前の頬が赤く染まっていることに気付いた僕は、そっと名前の手を取って名前に言った。

「こうすれば、温かくなるよね」
「!」

少し驚いたように目を丸くした名前だったけど、すぐに嬉しそうに目を細めて笑う。「そうだね」と照れ臭そうに呟く名前に、僕はこれ以上ないくらい幸せな気持ちになった。だんだんと歩くペースが落ちて、僕たちはこの幸せな時間を少しでも長く味わおうと必死になる。
僕が名前の方に視線をやった時、ちらほらと白いものが視界に映った。

「雪……」

僕よりも先に名前が雪に反応して、空を見上げる。それに続いて僕も空を見上げた。空からは、とても綺麗で真っ白な雪が降り注いでいた。

「寒いけど、でもすごく綺麗だね」

そんな名前の鼻が赤くなっていることとか、名前が喋る度にその小さな口から零れる白い息とか、雪のせいで少しだけ上がっている名前のテンションも全て、可愛いと思った。僕はぎゅっと名前の手を強く握って、また足を進める。

 寒い日は、いつだってこうして彼女を温めてあげたい。

「好きだよ。名前」



 20140130
皆帆和人*手を握って温める



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