unubore | ナノ
 私たち第6小隊は今日は任務を出されなかったため、出撃せずにモニター室へと向かっていた。隊員とちらほら会話を交わしながらモニター室に入ると、一番隅っこの席に座る伊丹君の姿を見つけてしまう。
「あ」
「?どうかしたのか、まこ」

伊丹君に声を掛けたいと思ったのだが、さすがに他国の生徒に自ら話しかけに行くのは私にとって良い結果にはならないだろう。しかも今は伊丹君は一人だけど私は隊員たちと一緒なのだ。変な疑いを掛けられるのは伊丹君にも悪いと思い、私は小隊長に「何でもないよ」と笑顔で返す。小隊長も納得したように「そうか」と頷き、モニターに目をやった。私はその隙を見て、ちらりと伊丹君に視線をやる。目が合うことはなかった。

「今日はグルゼオンは出撃していないのか」
「!…本当だ」

小隊長の言葉に驚きモニターを見ると、いつまでたってもグルゼオンの姿は映らない。(まぁ、良かった…)少し不可解にも思えたが、ジェノックの被害が減ると考えるとそれは良いことだ。私は小隊長の隣に座り、じっとモニターに映る仮想国同士の戦いを見つめる。ふと第2小隊がモニターに映った時、私はリンコのことを考えながらモニターに釘付けになっていた。
 そんな私を見つめているひとつの視線に、気付くこともなく。





ウォータイムが終わると、私は真っ先にリンコの元へと向かっていた。誰よりも早く、リンコに「お疲れ様」を言いたい。そんな気持ちでリンコに会いに行く。

「リンコ、お疲れ様!」

少し疲れているようにも見えるリンコを気遣いながら、私はリンコの頭を撫でた。
「くすぐったいよ、まこ」
そう言って照れ臭そうに笑うリンコを嬉しい気持ちで見つめていると、ふとリンコの顔から笑顔が消える。(…?どうしたんだろう)不思議に思い「リンコ?」と声を掛けると、リンコはある一点を見つめていた。すると、

「あの人、」
「え?」

リンコが眉間に皺を寄せてそう言ったから私もリンコの視線を追うようにして振り向く。リンコの視線の先には、伊丹君の後ろ姿があった。

「今、すごい睨んできた」
「!……あの人が?」
「うん」

小さく頷いたリンコの顔は、嘘を付いているようには見えない。私はもう一度振り向いて再確認しようとしたのだが、もうそこに伊丹君の姿はなかった。リンコの視線は、明らかに伊丹君に向いていた。しかし伊丹君がリンコを睨んでいたなんて信じ難い。もしかして、彼は私を睨んでいたんじゃないだろうか。(いや、でも、そんな…)
 色んな考えがぐるぐると頭を巡ってパンクしそうになった時、リンコが「まあいいや」と話題を変える。

「そろそろ行こう」
「あ、うん、そうだね」

私はリンコの追うようにしてその場から立ち去る。

どうも、伊丹君のことが気になって仕方なかった。



 20140118