unubore | ナノ
 あの日から、別に用も無いのにカイトが話しかけてくることが多くなった。
私とカイト。その組み合わせに周りが驚くのは当たり前だ。今日もカイトは用も無いくせに私に声を掛けてきた。その内容は様々で、「おはよう」などの挨拶だけの時もあれば「今日の昼食のメニューは何だろうね」と突っ込みどころ満載な質問を投げかけてくることもしばしば。
カイトの頭が心配になったが、カイトのことだからきっと何かしら意味があるのだろう。そうだと信じたい。そんなことを考えながら次の授業の準備をしていると、サクヤが不思議そうな顔で私に言った。

「最近カイトと仲良いよね、まこ」
「な、仲良いっていうか……」

(なんか、変なプレッシャーを掛けられてる気がするんだけど…)
私は溜め息を漏らしながら「仲が良いっていうのはちょっと違うかな…」と続ける。サクヤは頭の上にハテナマークを浮かべていたけれど、何かを察したように苦笑した。





 その日の放課後、寮に帰るため一人で商店街を歩いていると少し前の方に伊丹君らしき後ろ姿を見つけた。
私は速足でその後ろ姿を追いかける。伊丹君が向かっている先は、どうやら寮ではないらしい。(どこに行くんだろう…)

「伊丹君!」

やばい!と口を塞いだ時には時すでに遅し。伊丹君がぴたりと足を止めてこちらを見た。久しぶりに伊丹君の顔を見た。だけど、その顔はいつもとだいぶ違う。かなり苛々しているようだった。

「…チッ」

伊丹君が小さな舌打ちを零す。舐めていたキャンディをガリガリと噛み砕いている伊丹君に私は少しずつ近づいた。あと3メートル、1メートル、50センチ。私が足を止めて伊丹君を見つめると、すぐに顔を背けられてしまった。それが少しだけショックで、私は思わず伊丹君の腕を掴む。

「離せよ」

冷たい声が返ってきた。
前とは違う。今日は私が伊丹君に詰め寄っているのだ。自分でも信じられないと思う。だけど今はそんなことを考えている暇はなかった。

「何で避けるの」

ずっと疑問に思っていたことをそのまま投げかければ、伊丹君は黙ったまま私の手を強く振り払う。それでも諦めずに伊丹君を追えば、今度は伊丹君が乱暴に私の腕を掴んで引っ張った。

「!!」

掴まれた腕にぎりぎりと力を込められて、さすがに痛くて顔を歪める。伊丹君はまた舌打ちを零して、私を睨みつけた。

「っ…伊丹君」
「うざいんだよ、お前」
「……何で?」

今日だけは絶対に折れてやらない。そう決めた私は伊丹君から目を逸らさずに問いかけた。三度目の舌打ちをされてしまったが気にしない。伊丹君が私に背を向けてまたどこかに向かっていくのを、私は必死に追いかけた。


 20140216