unubore | ナノ
「え……?」

リンコは、ただただ目を丸くして私を見つめていた
(ああ、やっぱり、そうだ)
リンコの目は、まるでありえないものでも見るかのように私を刺す。甘ったるい期待を抱いていた自分を殺してしまいたくなった。リンコは、男の子が好きなんだ。

 私とは違う。


「なーんてね」
「! っえ、」
「冗談だよ。びっくりした?」
「……」

未だにぽかんと口を開けていたリンコだが、私が「さっきのお返しだよ」と言って笑ったのを見て、ああそうだったかという顔をして「びっくりしたよ!!」と笑った。一気に空気が緩くなる。リンコはすっかり私の誤魔化しを信じたようだ。その後もいつも通り普通にLBXのことや他愛もない話をしていたのだが、片づけと準備に時間がかかると確信した私は、リンコに「先に帰ってて」と伝える。リンコは少し戸惑っていたものの、先に教室を出て行った。






 ようやく帰る準備を終えて、私は教室を出る。するとすぐに、聞き慣れた声が聞こえた。

「どうして嘘をついたんだい?」

それはカイトの声だった。私は驚きつつも声が聞こえた方を見る。そこにはやはりカイトが立っていた。どうしてこんな時間まで残っているのだろう。そんな疑問が顔に出ていたのだろうか、カイトはいつものような笑みを浮かべながら言った。

「忘れ物を取りに来たんだよ。そしたら君たちが教室で話してて……とてもじゃないけど教室に入りにくい雰囲気だったから話が終わるまで待ってたんだよ」
「……そ、そっか…」
「それで」
「!」

カイトはゆっくりと私に近づきながら、またさっきの質問を繰り返す。

「…どうして嘘をついたんだい?」
「……何のこと、かな」

実際、それはとぼけたつもりでも何でもなかった。カイトの言っている"嘘"というのが何のことだか分からなかったし、この空気についていけない。私は心のどこかで焦りを感じながらカイトを見つめた。

「僕は気付いてたよ。まこがリンコを好きだって」
「!?っ…え…?」
「……ハルキもきっと、分かってたんじゃないかな」

どうしてそこでハルキの名前が出てきたのか最初は分からなかったけど、そう言ったカイトの目は、全てを知っているように見えた。私の心も気持ちも全て、見透かされているように気分だ。
私はカイトから目を逸らして、小さな声で言う。

「…ハルキの気持ちには、答えられなかった」

カイトがどんな顔をしているかは見えなかったけど、すぐにカイトの言葉が返ってきた。

「それで良いんじゃないの」
「!」
「全部が全部、甘ったるいハッピーエンドになるわけじゃない。……下らない嘘をつくよりよっぽどマシだ」
「っ、……」
「さっきの嘘みたいな、ね」


私は思わずカイトに視線を戻した。

「全部、聞いてたんだ…」
「聞こえちゃったとでも言うべきかな」
「…悪趣味だね、カイトは」
「…君もね」

それからしばらく沈黙が流れて、私はまたカイトから視線を逸らす。
カイトは、私が同性愛者だということを分かっていた。ハルキが私を好きだということも分かっていた。考えれば考えるほどに頭が混乱してきて、思わずぎゅっと目を瞑る。

「まこは本当にリンコが好きなのかい?」
「、え……?」

その意味深な質問に私は目を見開いてカイトを見つめた。
(本当に、って…?)
しかしカイトはそれ以上何も言わずに、
「…まぁいいや。あとは自分で考えなよ」
とだけ言って私に背を向ける。

「っカイト、待っ…」

その背中を呼び止めることはできなかった。



 20140215