unubore | ナノ
 久しぶりに、放課後の教室でリンコと二人きりになった。
今まではリンコと二人きりになることなんて当たり前だったのに、今は何故かもどかしい気持ちで一杯だ。私の帰る準備が終わるまで待っていてくれているのだろう、自分の席に座ってLテクを読んでいるリンコをちらりと盗み見て、私は自分の机の上に積み重ねられた資料の片づけを始める。するとリンコはそれに気付き、「手伝おうか?」と聞いてきた。

「ううん大丈夫だよ」
「そう?」

リンコはまたLテクに視線を戻す。そんなリンコに視線をやって、私は口を開いた。

「…あ、あのさ」
「ん?」

リンコはすぐに返事をした。私を見て、首を傾げる。どうかした?と言わんばかりの顔に、もどかしい気持ちが大きくなった。私は片づけをしている手を止めずに、リンコに背を向けたまま続ける。

「リンコって、…好きな人とか、いないの?」
「! どうしたの?急にそんなこと聞いて…」
「あ、こ、答えるの嫌だったら、いいんだけど」
「いるよ」
「、」

バッ。思わず驚きを隠せずにリンコに顔を向けた。(え、うそ、うそだ)頭の中はパニックになってしまい何も考えられない。するとリンコはそんな私を見て楽しそうに笑った。

「あはは。嘘だけどね」
「!えっ………あ、ああ、嘘ね…」

がっくりと肩を落として私はまた片づけを再開させる。

「もー、リンコってば」
「ごめんごめん」

謝る気のないリンコの楽しそうな声を聞いて、私は安心した。ばくばくと加速していた鼓動が次第に落ちついていく。そんな時、リンコが少し真剣な声で私に問いかけた。

「まこは?」
「えっ、」
「まこはいないの?好きな人」
「な、…なに言って…」

自分からこの話題を振ったくせに、私は思わず冷や汗をかいてしまう。リンコは珍しくこの話題に乗り気みたいだ。やっぱりリンコは女の子だと実感すると同時に、何ともいえぬ気持ちが胸を埋める。

「ハルキ、すごくまこのこと気に入ってるみたいだけど」
「、」
「ハルキとは何もないの?」

あまりに残酷な現実に、私は涙さえ出てきそうだった。
まさかそれをリンコに聞かれるとは思わなくて、動揺と悔しさが溢れてくる。(私は………)

上手く頭が回らない。あれ、おかしいな。だんだん苛々してきた。何でだろう。リンコに対して苛立つことなんて、数えるほども無かったはずなのに。
(今はすごく…腹立たしい)
ぶるぶると震える指先をぎゅっと握って、私はリンコに体を向ける。そして、






「私、レズだよ」





リンコの顔から笑顔が消えた。


 20140215