unubore | ナノ
 伊丹君と話さなくなって、ついに2週間。
本当におかしい。一体どうしてしまったのだろう。原因は何だ。あの日の夜、伊丹君が海辺で私を襲ったことが原因なのだろうか。私は暇さえあればそんなことを考えるようになってしまっていた。
とにかく理由が知りたい。このままは嫌だという気持ちは止まることなく大きくなっていく。そんなある日、教室でアラタと話していた時のことだった。


「そういえばまこはさぁ」

アラタはその続きを少しだけ躊躇っているように見えた。私が首を傾げてアラタを見つめると、アラタは小さな声で私に言う。

「好きな奴いるのか?」

そんなことを聞かれて、思わず息をするのを忘れてしまった。

「え、な…なんで?」
「まこ、この前スゲー赤くなってたからさ」
「この前?」
「ほら、この前の朝だよ!ロンドニアの奴と何か話してただろ?」
「、」

アラタはずいっと顔を近づけて、周りに聞こえないように口元を手で隠す。そして私に追い打ちをかけるように、「あいつのこと好きなのか?」なんて聞いてきた。一瞬、こいつは何を言ってるんだという顔をしてしまいそうになったが、何とか笑顔を取り戻してアラタに言う。

「ち、違う違う。あれは、ちょっとぶつかっちゃったから謝っただけだよ」

(私が、伊丹君を好き…?そんな、まさか)そうだそんなのありえないと何度思ったことか。私は心の中でぶんぶんと首を振り、余計な感情を追い払う。興味深々だったアラタの顔が少し離れて、「そーかぁ」とつまらなそうに肩を落としていた。
 もし私が彼を好きだと言ったら、アラタはどんな反応をしただろう。アラタは、違う仮想国の生徒が恋仲であることが問題だとは思わないのだろうか。

「…アラタはさ…」
「ん?」
「他の仮想国の女の子のこと、その、好きになっちゃったら…どうする?」
「どうするって?」
「え、えっと……付き合ったり、したい?」
「そりゃあ、したいよ!!」
「! で、でもっ…」
「?」
「お互い、敵っていう立場にあるのに…周りには、どう説明するの?ジェノックの皆には…何て言うの?」
「…まこ?」
「、えっ」

アラタは私の顔を覗き込むようにして見つめながら、にやりと楽しそうに笑う。とても子供らしい、無邪気な笑顔だ。

「な、なに…」
「それって、まことあいつのこと言ってるのか?」
「!!」

あいつとは伊丹君のことだろう。決して悪意のないアラタの視線に、私は何も言えなくなってしまう。(私と、伊丹君の……)あまりに呆然としている私を見て、アラタはぽんと私の肩を叩いた。

「さっきの質問の答えだけど…」

そして、言う。

「俺は、別にどうもしないぜ。だって好きなんだから、どうしようもないだろ!」
「!、っ」
「だからまこも、別にどうしなくても良いと思う」
「アラタ…」
「今日のウォータイムも頑張ろうな!まこ!」


アラタの笑顔が眩しい。すごく眩しくて、きらきら輝いていた。


 20140215