unubore | ナノ
 今日のウォータイムは第2小隊と第5小隊のみの出撃だった。
一緒にモニター室へと行くことにした私と隊員は、少し速足で廊下を歩く。小隊長がモニター室への扉を開けようとしたその時、私たちよりも先に扉を開けた人物がモニター室から出てきた。小隊長は少し驚いたように手を止める。すると扉を開けて出てきた人物も少し驚いたようにこちらを見た。そこで私はハッと目を見開く。

「っ…い、いた、」

思わず目の前にいる人物の名前を呼んでしまいそうになり、慌てて口を塞いだ。そんな私に気付いたのだろう、目の前の人物――伊丹君は無表情のまま私を見つめる。

「……」

彼も決して私を呼ぼうとはしなかった。私の名前を知らないというのもあるのだろうけど、そうじゃなくて、完全に他人のフリをしている。そりゃそうだ。アラタと法条ムラクの時もそうだったけど、他の仮想国の生徒と仲良く(?)していると…ましてやどちらが先に惚れてしまうかなんて馬鹿げたゲームをしているなんて知られたら大変どころの騒ぎじゃない。そうは分かっていたのだが、

「…まこ?」
「! あ、」
「もうウォータイムは始まっている。早く行くぞ」
「……、うん。ごめん」

あまりに冷たく素っ気ない伊丹君の視線に、私は胸が痛くなるのを感じた。
(な、何…これ…)
どうしてこんなに悲しいんだろう。昨晩からずっと何かが引っ掛かったままだ。伊丹君のことを考えると、妙な違和感がぐるぐると頭の中を駆け巡る。
 小隊長の急かしにより私は急いでモニター室へと足を運んだ。伊丹君とすれ違った時にふわりと香った伊丹君の匂い。私は思わず足を止めそうになったが、足は止めずにそのまま伊丹君の顔を盗み見る。目など、合うはずがなかった。

モニター室に入ってすぐに椅子に座りモニターに目を向ける。ジェノックにはこれといった被害はなくそれぞれの任務を続行していた。
しかし私はなかなかモニターに映る映像に集中できずに、先ほどの伊丹君のことばかり考えていた。
(…いつもなら、チビとか言って突っ掛かってくるのに)
よく分からない苛立ちが腹の底から沸き上がってくる。他人のフリをされたくらいで、私は何を傷付いてるのだろう。他人のフリくらい、私だっていくらでもしてきたことなのに。

「! …まこ、どうかしたのか?」
「い、いや。何でもないよ」
「?…そうか」

小隊長が心配そうに私の顔を覗き込んだけど、私はそれを避けるようにして笑顔を向ける。こんな顔、見られるわけにはいかなかった。(だって、今の私はすごく……)

「…っ、……」

すごく、情けない顔をしているから。



 20140212