unubore | ナノ
 ハルキの唇の感触はすぐには消えることはなかった。
だんだんと顔が熱くなる。目の前にハルキの顔があって、少しでも近づけばまたキスしてしまいそうな近さだ。たった今ハルキが言った言葉が頭にハッキリとこだました。

『まこ、――好きだ、』

(っ…!!!)
一気に体中が熱くなって、ハルキの顔なんてまともに見れずに目を閉じる。どうしようどうしよう。ハルキが、そんなまさか。聞き間違いだと信じたい。だけどハルキは気まずい沈黙を破って口を開いた。

「…いきなりこんなことをして、すまなかった」

心からの謝罪だった。私は焦って上手く働かない頭を必死に働かせてハルキから距離を取る。嫌悪感など全くなかった。だけど、驚いて焦って恥ずかしくて顔が真っ赤になったものの、ハルキを好きだという気持ちはどこからも湧いてこなかったのも事実だ。

「だ、大丈夫、だよ!ちょっと、び、吃驚しただけで…っ」
「まこ」

いつもの柔らかい表情に戻ったハルキは、今度は優しくゆっくりと私を抱きしめる。ふわりとハルキの匂いが鼻を掠った。私は抵抗せず、だけど抱き返しもせずにただハルキの言葉を待つ。

「…まこが好きだ」
「っは、ハルキ……」
「絶対にまこを傷つけたりしない…泣かせたりしない、だから俺と
「ハルキ、」
「…!」

私はハルキの言葉を遮って、ハルキに言った。

「その気持ちには答えられない理由があるの」

ハルキの体が固まる。私はひどい罪悪感に襲われた。でもこう言うのが正しい選択なんだ。私の好きな人は、………


(あ、れ…?)


何かがおかしかった。今までとは違うこの感じ。
(私が好きなのは……、)その続きが分からない。そうだ、リンコだ、私が好きなのはリンコのはずなのに、どうしてかその気持ちを私自身が拒んでいるようだった。

「まこ…」
「!」

ハルキの声で私はハッと我に返る。思わず唖然とした顔でハルキに視線を向けると、ハルキは少しだけ悲しそうな顔で言った。

「今までみたいに、一緒に戦ってくれるか…?」
「っ、もちろん…もちろんだよ、ハルキ」
「……、ありがとう」

どうやらハルキは気持ちを落ち着かせたらしく、「そろそろ教室に戻ろう」と言い私の腕を優しく引っ張った。私はそんなハルキの後ろに続いて屋上を出る。二人分の足音だけが響く廊下で、私はハルキの背中を見ながらずっと自分の心の中にある違和感が何なのかを考えていた。


 20140211