翌日の朝、いつも通りの時間に起きて寮を出ようとするとハルキに会った。
「あ、ハルキ」
「まこ、おはよう」
「うん。おはよ」
挨拶を交わすとハルキが少し心配そうな目で私を見ていることに気付く。どうやらまだ私がロストした仲間のことを気にしてると思っているのだろう。私はそんなハルキに昨日の朝、島を出る前の仲間と話をしたことを伝えた。あえて仲間が私を好きだったこととかそういうのは言わなかったけど、なんとなく、ハルキも察していたようだった。伝えることを全て伝え終えると、ハルキは驚いた顔をしていたけどすぐに「そうか」と優しく笑ってくれる。
「心配かけてごめんね、ハルキ」
「気にするな。何より、まこがまたメカニックとして共に戦ってくれることが俺は嬉しい」
「…ありがとう、本当に」
何だか照れくさい空気にお互いに苦笑しながら寮を出る。
私はハルキと並んで歩いた。ハルキは厳しい時はすごく厳しいけど、その分、優しい時は本当に優しいのだ。だからクラス委員としても仲間としても本当に信頼している。
もう少しで学校に到着しようとしていた時、急に後ろから聞き慣れた声が聞こえたため私は足を止めた。
「チビ」
こんなことを言うのは一人しかいない。私はその相手を睨みつけるようにして振り向いた。するとやっぱり、そうだ。私たちの後ろにいたのは伊丹君だった。私は冷たく「何か用?」と問いかけようとしたのだが、それよりも先にハルキが口を開く。
「ロンドニアの生徒が何の用だ」
どこか警戒しているようなハルキの声に、私は少し驚いてハルキを見る。だが、ズカズカと私の目の前まで歩いてきた伊丹君が私の腕を掴み軽く引っ張った。するとハルキは目を丸くして私のもう片方の腕を掴む。ちょっとだけ、痛かった。
「ちょっとコイツ借りてくぜ」
「…まこに何か話でもあるのか」
「あァそうだ」
ハルキがちらりと私を見た。それと同時に、私の腕を掴むハルキの手の力が強まる。私はすぐにでも二人にこの両手を解放してほしかったのだが、ハルキに心配をかけないよう優しく笑いかけながら言った。
「大丈夫だよ。朝礼には間に合うようにするから」
そんな私の言葉にハルキはますます不安そうな顔をしたが、伊丹君をキツめに睨んでから私の腕を離した。
「…必ずだぞ」
「うん。ありがとうハルキ」
するりと私の腕に掠ったハルキの指をくすぐったく思いながら、私はハルキから一歩離れて伊丹君に近づく。
ふと伊丹君の顔を見ると、どこか苛々しているように見えた。話とは一体何なのだろう。あまり悪い話じゃなければ良いが。私はそんなことを願いながら伊丹君に連れられて裏庭へと向かった。
どうやら目的地に着いたのであろう伊丹君が足を止めて小さく舌打ちを零した。それと聞いた私は少し不快になりつつも続けて足を止める。すると伊丹君が言った。
「ジェノックは馬鹿馬鹿しい奴ばっかりで吐き気がする」
「それ、ハルキのこと言ってるの?」
「ああそうだよ。アイツぜってェお前のこと好きだぜ」
「……そういう伊丹君が馬鹿馬鹿しいよ」
ハルキを馬鹿にされたことで更に不快になった私は、素っ気なくそう返した。そんな私を伊丹君は睨むように見つめる。結構怖かったけど、話があるなら早く終わらせてほしいと思い私はまた口を開いた。
「話って何、ハルキの前じゃ言えない話?」
「…お前、メカニックは続けんのかよ」
「え……?」
「やめたいって言ってたじゃねえか」
「……」
どうしてそんな質問をしてきたのかは分からないが、私はすぐに首を横に振る。
すると伊丹君は少しだけ黙り込んだ後、「そうかよ」と短く返して私に背を向けた。そしてそのまま去って行こうとしたから私は慌てて引き止める。
「い、伊丹君、」
「何だ」
「話って…それだけ?」
「…まあな」
(い、意味が分からない…)
結局彼は何が言いたかったのだろうか。私は頭にハテナマークを浮かべながらも、去って行く伊丹君の後ろ姿をただ見つめていた。
もし、もしも、私が「やめる」と言ったら伊丹君はどんな顔をしたんだろう。そんなことを考えては、首を傾げて結局"正解"には辿りつけない。そういえば、伊丹君の質問に私が首を横に振った時、伊丹君の目がちょっとだけ穏やかになった気がした。きっと気のせいなんだろうが。
しばらくその場でいろいろ考え込んでいたのだが、私は朝礼の時間が迫っていることに気付き慌てて教室へと走った。
20140128
「あ、ハルキ」
「まこ、おはよう」
「うん。おはよ」
挨拶を交わすとハルキが少し心配そうな目で私を見ていることに気付く。どうやらまだ私がロストした仲間のことを気にしてると思っているのだろう。私はそんなハルキに昨日の朝、島を出る前の仲間と話をしたことを伝えた。あえて仲間が私を好きだったこととかそういうのは言わなかったけど、なんとなく、ハルキも察していたようだった。伝えることを全て伝え終えると、ハルキは驚いた顔をしていたけどすぐに「そうか」と優しく笑ってくれる。
「心配かけてごめんね、ハルキ」
「気にするな。何より、まこがまたメカニックとして共に戦ってくれることが俺は嬉しい」
「…ありがとう、本当に」
何だか照れくさい空気にお互いに苦笑しながら寮を出る。
私はハルキと並んで歩いた。ハルキは厳しい時はすごく厳しいけど、その分、優しい時は本当に優しいのだ。だからクラス委員としても仲間としても本当に信頼している。
もう少しで学校に到着しようとしていた時、急に後ろから聞き慣れた声が聞こえたため私は足を止めた。
「チビ」
こんなことを言うのは一人しかいない。私はその相手を睨みつけるようにして振り向いた。するとやっぱり、そうだ。私たちの後ろにいたのは伊丹君だった。私は冷たく「何か用?」と問いかけようとしたのだが、それよりも先にハルキが口を開く。
「ロンドニアの生徒が何の用だ」
どこか警戒しているようなハルキの声に、私は少し驚いてハルキを見る。だが、ズカズカと私の目の前まで歩いてきた伊丹君が私の腕を掴み軽く引っ張った。するとハルキは目を丸くして私のもう片方の腕を掴む。ちょっとだけ、痛かった。
「ちょっとコイツ借りてくぜ」
「…まこに何か話でもあるのか」
「あァそうだ」
ハルキがちらりと私を見た。それと同時に、私の腕を掴むハルキの手の力が強まる。私はすぐにでも二人にこの両手を解放してほしかったのだが、ハルキに心配をかけないよう優しく笑いかけながら言った。
「大丈夫だよ。朝礼には間に合うようにするから」
そんな私の言葉にハルキはますます不安そうな顔をしたが、伊丹君をキツめに睨んでから私の腕を離した。
「…必ずだぞ」
「うん。ありがとうハルキ」
するりと私の腕に掠ったハルキの指をくすぐったく思いながら、私はハルキから一歩離れて伊丹君に近づく。
ふと伊丹君の顔を見ると、どこか苛々しているように見えた。話とは一体何なのだろう。あまり悪い話じゃなければ良いが。私はそんなことを願いながら伊丹君に連れられて裏庭へと向かった。
どうやら目的地に着いたのであろう伊丹君が足を止めて小さく舌打ちを零した。それと聞いた私は少し不快になりつつも続けて足を止める。すると伊丹君が言った。
「ジェノックは馬鹿馬鹿しい奴ばっかりで吐き気がする」
「それ、ハルキのこと言ってるの?」
「ああそうだよ。アイツぜってェお前のこと好きだぜ」
「……そういう伊丹君が馬鹿馬鹿しいよ」
ハルキを馬鹿にされたことで更に不快になった私は、素っ気なくそう返した。そんな私を伊丹君は睨むように見つめる。結構怖かったけど、話があるなら早く終わらせてほしいと思い私はまた口を開いた。
「話って何、ハルキの前じゃ言えない話?」
「…お前、メカニックは続けんのかよ」
「え……?」
「やめたいって言ってたじゃねえか」
「……」
どうしてそんな質問をしてきたのかは分からないが、私はすぐに首を横に振る。
すると伊丹君は少しだけ黙り込んだ後、「そうかよ」と短く返して私に背を向けた。そしてそのまま去って行こうとしたから私は慌てて引き止める。
「い、伊丹君、」
「何だ」
「話って…それだけ?」
「…まあな」
(い、意味が分からない…)
結局彼は何が言いたかったのだろうか。私は頭にハテナマークを浮かべながらも、去って行く伊丹君の後ろ姿をただ見つめていた。
もし、もしも、私が「やめる」と言ったら伊丹君はどんな顔をしたんだろう。そんなことを考えては、首を傾げて結局"正解"には辿りつけない。そういえば、伊丹君の質問に私が首を横に振った時、伊丹君の目がちょっとだけ穏やかになった気がした。きっと気のせいなんだろうが。
しばらくその場でいろいろ考え込んでいたのだが、私は朝礼の時間が迫っていることに気付き慌てて教室へと走った。
20140128