unubore | ナノ
 伊丹君は、どうして私に近づいたのだろう。保健室を出て寮へと向かう間、ずっとそんなことばかり考えていた。私を苦しめ仲間をロストさせるためだったのか。考えれば考えるほどに、これでもかと心臓が痛んだ。仲間を傷つける人は、許せない。ロストさせられた仲間の気持ちを考えただけで、ありえないくらいの怒りを覚えた。
『お前んとこの隊員も、あっさり死んでいったな』
どうして伊丹君は平気であんなことが言えたのだろう。どんな気持ちだったんだろうか。きっと、相手をロストさせたことなど微塵も気にしていないのだろうけど。そんな人に私の仲間はロストさせられた。戦場にロストは付き物だとは分かっている。きっとロストさせられた仲間もそう割り切っているだろう。(でも、私は……)許せなかった。平気な顔で私の前に現れた伊丹君も、未だに伊丹君とのキスの感覚を忘れられずにいる私も。


 寮に戻るとそこにはカイトがいた。カイトは私を見るや否や、小さめの声で私に言う。
「さっき保健室の前を通りかかったんだけど」
「!」

カイトは、目を細めてじっと私を見つめた。そして

「…ロンドニアの生徒と一体何をしてたのかなぁ、まこ」
「っ、!」

まさかそんな。あの光景を見られていたなんて。私は手に嫌な汗が滲むのを感じながら、強く唇を噛み締めた。しかしカイトはそんな私を見て薄く笑う。
「まあこのことは公にはしないであげるけど」
「っか、カイト…」

誤解を解かなければ。私は別に伊丹君と恋仲なわけではない。そんなことがあるはずない。カイトは察しが良ければ理解力も良い。(きっとカイトなら…)私は必死な思いでカイトに「あれは事故だ」と伝えようとした。しかしカイトはからかうように私の頬を撫で上げて、言う。

「すぐに情が移るその性格、直した方が良いんじゃない?」
「!!」

カイトはそれだけ言うと何事もなかったかのような顔で去って行った。
(伊丹、君……)

彼に出会ってから、私の心は乱されてばかりだ。



 20140121