pleatsskirt | ナノ
 夢のような二日間がやってきた。
それはもちろんただの休日のことだが、学生にとって休日がどれだけ素晴らしいものか。私は今週最後の学校を終えて家へと帰っている途中だ。不思議といつもの何倍も足取りが軽く、なんだかわくわくする。今日はいつもより少しだけ豪華な夕飯にしたい気分だった。

ようやく家に着いてドアを開けると、丁寧に整えて置かれた星原君の靴がある。私はその真っ白い靴を見つめてから、リビングへと向かった。するとどうやら星原君はリビングにいたらしく、一冊の本を手にして読書に夢中だ。私はそんな彼の邪魔をしないよう静かに鞄を置く。
 それからしばらく本を読んでいた星原君が私に気付き、本を閉じて机に置いた。

「帰っていたなら声を掛ければ良かったのに」
「ああ、ごめんね。邪魔しちゃ悪いかなって思ったの」
「…別に、邪魔じゃない」
「なら良かった。ありがとう」

私は急いで夕飯の準備をしようとした。
しかし星原君が私の顔をじっと見つめながら口を開く。

「疲れてるのか?」
「えっ、そ…そんなことないと思うけど…」
「……」

星原君はそんな私に対し、少し黙り込んでから思いついたように言った。

「ピザが食べたい」
「ピザ?」

突然の要望に驚いて変な声が出てしまったが気にしない。それよりどうして急にピザなんか。ああもしかして星原君はピザが好きなのかな。だとしたら是非食べさせてあげたい。でも冷蔵庫にピザの材料はあっただろうか…そんなことを考えながら冷蔵庫を開けると、また星原君が口を開いた。

「…宅配」
「え?」
「僕が食べたいのは宅配ピザだ」
「た、宅配ピザ?なんで?」

 私が更に頭を混乱させてそう問いかけると、星原君は何やら言いにくそうに口を閉じる。(……?どうしたんだろう)私は首を傾げながら冷蔵庫を閉じた。星原君は小さな声で言う。

「君が疲れているのに夕飯を作らせるのは悪いと思ったから」
「!」
(ああそういうこと!)
「…ありがとう、じゃあ今日はピザにしよっか!」

星原君の優しさに甘えて、私は急いで宅配ピザのチラシを広げた。





 ピザを注文してから十分後、すぐに家のインターホンが鳴った。
久しぶりに宅配ピザを食べるものだからわくわくしてピザを受け取り、リビングまで持って行く。星原君は無表情だったものの、ピザを見て小さく「美味しそう」と零していた。
二人で並んでソファに座り、ピザを食べ始める。また私が見たい番組もないのにテレビをつけたのを見て星原君はやはり解せぬといった顔をしていた。

 ぽつりぽつりと会話を交わしながらも、沈黙ばかりの食事が続く。
テレビの音が唯一気まずさを消してくれた。もっと仲良くなるにはまだまだ時間がかかりそうだと思った。

「そういえば」
「ん?」

そんなことを考えていた矢先、思い出したように星原君が口を開く。何かと思えば星原君は思わぬことを口にした。

「君の名前を、まだ聞いていなかった」
「……あ、そういえば」

星原君にはずっと"君"と呼ばれたいたから何となくそれに慣れてしまって、自分が自己紹介をしていないことをすっかり忘れていた。私は苦笑しながら「忘れちゃってたね」と言う。星原君は本当に少しだけ口角を上げて、
「名前は何て言うんだ?」
と聞いてきた。

「名字名前だよ」
「……名字さん、か?」
「名前でいいよ」
「…じゃあ、名前」
「うん。改めてよろしくね、星原君」
「ヒカル」
「え?」
「僕のことも、ヒカルで良い」
「! ……じゃあ、よろしく、ヒカル君」

彼は名前で呼ばれるのがあまり好きそうではないと思っていたが、そんな彼が名前呼びを許してくれたことに嬉しくなった。私は満面の笑みでヒカル君を見つめる。ヒカル君はこちらを見てくれなかったけど、それでも私は十分に幸せだった。

「ピザ美味しいね」
「ああ」
「毎日ピザでも良いかも…」
「僕は名前が作った料理も美味しいと思う」
「! …あ、ありがとう…」

ヒカル君の言葉にいちいち反応して速くなる鼓動が、今はただただ邪魔で仕方なかった。



 20140128