pleatsskirt | ナノ
 そんなこんなで星原君と一緒に住むことになったのだが。
何よりまずは買い物に行かなければならない。私一人でパパッと行って帰ってこようかと思ったものの、やはり人それぞれの好みがあるだろうと思い星原君も連れだすことにした。
しかし何を着せれば良いのだろう。星原君がこのままの姿で外を歩こうものなら痛いコスプレと勘違いされてしまうじゃないか。そしてそんな彼の隣を歩くのは非常に辛いし痛い。それだけは避けたい。
 とりあえず何かしらに着替えさせなければと思いクローゼットの中を見ても、目につくのは女物の服ばかり。そりゃそうだ。私は女なのだから。
だとしたらどうしよう。そう考え込んだ時、ふと高校の体操服とジャージが頭に浮かんだ。

「星原君、ちょっと待っててね」
「? ああ…」

私は急いで部屋を出る。確かリビングにあったはずだ。


「あった!」

ソファの上に置かれた体操服とジャージを手に取り、私はまた自分の部屋へと向かう。ドアを開けて中に入ると、星原君は私の手に握られた体操服とジャージを見て首を傾げた。

「それは?」
「私の高校の体操服とジャージなんだけど…ほら、買い物に行くのにその格好じゃ目立つでしょ?」
「…確かに、そうだな。それを着れば良いのか?」
「うん。はい」

私が体操服とジャージを差し出すと、星原君は文句一つ言わずにそれを受け取ってくれた。しかし、
「少し小さいな…」
と聞こえた気が、あえて無視を決め込んだ。




 そんなこんなで家を出て商店街まで来たものの、男の子は一体どういうお店で服を買うのだろうか。あれから少し星原君が存在していたアニメについて調べてみたのだが、どうやら星原君が存在していた日本は2055年の日本らしい。つまりこの世界の日本とはまるっきり別世界なのだ。(そんなのは当たり前なのかもしれないけど)先ほどから驚かれてばかりの私だったが、それはどうやら星原君も同じらしい。

「すごいな…」

街並みをじろじろと見渡しては、五分刻みくらいで驚きの言葉を発している。家を出た時はあまり興味がなさそうだったが、今は興味深々だ。どうやら星原君は口数が少ない子なのだろう。進んで私に話しかけてくることはなかった。私が男だったらもう少し違ったのかもしれないけれど。

「あ、星原君」
「?」

私はすぐ近くに百均を見つけたため足を止める。とりあえず生活に必要な最低限のものはここで揃えてしまおう。安っぽいもので申し訳ないが、それくらいは我慢してほしい。
首を傾げて足を止めた星原君に「あそこ寄ろう」と声を掛けて、百均へと向かう。星原君は黙ったまま私の後を付いて来た。なんだか猫みたいだ。

「ここで何を買うんだ?」
「うーんと…まずは歯ブラシとタオルと…… あ、」

下着も買っておかないと。
私はそれを口にするのが何となく恥ずかしくて、それ以上は言わずに星原君を連れてまずは歯ブラシやらタオルやらが売っているコーナーへと足を進める。
種類が少なかったため、歯ブラシとタオルはすぐに決まった。私はそれを手に持ってレジに並びつつ、星原君に三百円を渡す。そして小声で伝えた。

「あ、あっちに下着が売ってると思うから、好きなの選んで買ってね」
「! ……ああ、分かった」

星原君もどうやら察してくれたみたいだ。それ以上は何も言わずに一人ですたすたと私が指差した方へと歩いて行く。
そんな星原君の後ろ姿を見て、私はため息を吐いた。
(なんか…疲れた……)
気を遣うというのも大変だ。星原君が物分かりの良い年下で良かった。これで年上だったら私はこの先気を遣いすぎて鬱になってしまうかもしれない。それは言い過ぎかもしれないけど。

 レジが私の番になり、私は店員さんに商品を渡す。

「2点で、210円になります」

財布からピッタリ210円を取り出して、会計を済ませる。私は手に持ったレジ袋を見つめて、これから星原君と一緒に住むことになるのだと実感させられた。アニメの中の、男の子と。なんておかしい話なのだろう。本当に、嘘みたいだ。

 しばらくすると星原君も会計を済ませたらしく、急ぎ足で戻ってきた。
私たちはお店を出て、今度は近くの服屋へと歩き始める。時間は10時半。今日のお昼は何にしよう。私はそんなことを考えながら、星原君と二人で買い物をした。

(なんか、隣に誰かがいるというのも良いかもしれない)


 20140119