pleatsskirt | ナノ
得体の知れない少年に話を聞くと、少年はここに来るまでの記憶が全くないらしい。というよりも、数秒前まで神威なんたら学園という場所に仲間たちといたらしく、瞬きをして目を開けたらここに立っていたというのだ。
そんな話、信じる人がどこにいるだろう。

「ち、ちょっと待ってね。すぐに警察に電話を…」

未だにテンパった頭を必死に働かせてブレザーのポケットにしまった携帯を取り出すと、少年は黙ったまま私の手を掴んでそれを阻止した。警察には通報するなということだろうか。そりゃあ私だって学校に行かなきゃいけないし面倒なことにはなりたくない。ってあれ、気がつけばもうこんな時間……遅刻が決定してしまった。リビングではきっと冷めて固くなってしまったであろうパンも待っている。朝から残念なことばかりだ。少年も私同様テンパっているらしく、さっきからキョロキョロと私の部屋を見渡している。できればあまり見ないでほしい。

「家は?どこに住んでるの?」

この際どうして私の部屋にいたのかは置いておこう。とにかく彼には自宅に帰って頂きたい。

「…家、というか……それよりここは、神威島なのか?」
「かむいとう?」

それはどこのドラマに出てくる島なのだろうか。さっきから彼の言っている意味が全く分からずに余計に混乱した。こんな訳の分からない人、さっさと警察に突き出してしまいたい。しかし残念なことに、彼の顔はどう考えても嘘を付いているようには見えないのだ。だからといって軽々しく、ああそうですかなんて信じることも難しい。

「ここは、日本、ですけど…」
「日本だと?」

何を言ってるんだ、みたいな顔で見られてしまった。それはこっちの台詞ならぬこっちの顔だ。もしかして彼は神威島という国の人であり、日本人ではないのだろうか。髪の毛もすごく綺麗な金髪だし。

「あの、貴方の名前は?」
「星原ヒカル」

ばりばり日本人の名前じゃないか。

「じ、じゃあ神威島っていうのは…」
「僕は神威島にある神威大門統合学園に通っているんだ。そこを卒業するまでは神威島にいなければならない。だから僕が日本にいるなんて…ありえないんだ」
「!」

さっきはテンパっていたから上手く聞き取れなかったけれど、神威大門統合学園という学校名はどこかで聞いたことがある…気がする。だけどどうしても思い出せなかったから携帯で調べることにした。私がブレザーのポケットから携帯を取り出すと彼が驚いた顔をしたから「警察に連絡はしないよ」と伝えて、インターネットを開く。

(かむい…だいもん、とうごうがくえん…っと)
検索欄に打ち込んでボタンを押せば、すぐに神威統合学園に関する情報が表示された。私が言うのも変かもしれないけど、本当に便利な世の中になったと思う。本当に。
しかしそんなことを考えていたのも束の間、私は最悪なアハ体験をすることになる。

「え……!?」


神威大門統合学園とは。そんな見出しの記事を読んで、私は唖然と口を開ける。そんな私を見て彼は首を傾げていたが、すぐに我に返った私はあり得ない物を見る目で彼を見つめた。

「…何だ?僕の顔に何か…」
「ダンボール…戦機……」
「!」

私の言葉に彼が反応する。まるで、知っているのか!?とでも言わんばかりの顔だ。しかしそんな彼とは裏腹に私はさっきの何倍もテンパってしまっていた。
(ま、まさか、そんなことがあるわけ…っ)
神威大門統合学園とは、ダンボール戦機というアニメに登場する学校の名前なのだ。そして、神威島も。ダンボール戦機のアニメのホームページには星原ヒカルという名前もちゃっかり載っていた。だんだん頭が痛くなる。私は携帯の画面を彼の顔を交互に見つめて、「嘘…」と小さく声を漏らした。

「……非常に、言いにくいんだけど…」

私はあえて"貴方はアニメの中のキャラクターだ"とは言わず、

「貴方が家に帰れるようになるまで、その…しばらく泊めてあげるから…」

どうして私がこんなことを言わなければならないのだと携帯を握りしめながら、彼にそう言った。もちろんのこと彼はひどく驚いたように目を見開いたが、どうやら理解が早く頭が良いらしい。反論などせず素直に「それなら…しばらくの間、よろしく頼む」と軽く頭を下げた。そうと決まればたくさんの準備が必要だ。確か父の部屋が空いていたはず。部屋にあった荷物は全て父が持って行ったため、今すぐにでも彼をそこに置いてあげられるだろう。
私は立ちあがり、もう一度彼の名前を確認する。

「えっと、星原ヒカル君だよね?」
「ああ。そうだ」
「年は…いくつですか?」

散々タメ口を使っておいて年上だったらどうしようかと思い、取って付けたように敬語を使ってみたが星原君は表情を崩すことはなく「14歳」と答えた。良かった、年下だった。しかし私より2つも年下なのにこの身長差は何なんだろうか。

「部屋はとりあえず、隣の部屋を使ってね。あと洋服とかは買わないと…」

さすがにその制服では外を歩かせることができない。しかし財布にはいくら残っていただろうか。両親からの仕送りに加えバイトをしているからそれなりに残ってはいるだろうが、それはきっと今日中にほとんど消えてしまうだろう。くそ、何でこんなことに。


 ちらりと時計を見るともう9時を指していた。ああ駄目だもう、今日は学校を休むしかなさそうだ。


 20140119