pleatsskirt | ナノ
 放課後になると長宮君はいつも以上に明るい顔で私に駆け寄って来た。
「行こうぜ!」と言って笑う長宮君は、子供っぽくて何だか可愛いとさえ思ってしまう。そういえば、もらったパンのお礼をまだちゃんとしていなかったから、買い物をする時に何か買ってあげよう。そんなことを考えながら私は長宮君の隣を歩いて学校を出た。



 どうやら長宮君が買いたかったものはコンビニのパンだったらしい。しかも、例の景品までの最後の三点を集めた長宮君は本当に嬉しそうに笑って喜んでいた。

「良かったね、長宮君」
「おう!まじで嬉しい!!」

高校生にもなってそんなにぬいぐるみが欲しかったのか、とツッコミを入れたくもなったが長宮君が嬉しいなら良しとしよう。
(…それにしても)

「長宮君」
「ん?何だ?」
「今日の買い物って、これで終わり?」

素朴な質問で聞いたのだが、なぜか長宮君は頬を微かに赤くそめて目を逸らす。今度はどうしたのだろう、とまた首を傾げればパンを鞄にしまった長宮君が私を見つめて控えめな声で言った。

「…や、何つーか……名字ってさ、ケーキ好き?」
「ケーキ?」
「チョコケーキとか…」
「うん、すごい好き!!」
「まじ!?だったら近くにめっちゃ美味い店があるからそこ行こうぜ!俺が奢るよ!」
「えっ、そ、それは悪いよ…!お金ならあるし、」
「良いんだって!」

そう言って自慢げに笑った長宮君は少しだけいつもと違く見えて、何だか不思議な感覚がした。(……何でだろう) いつもと同じはずなのに、その笑顔がいつもの何倍も優しくて嬉しそうなものに見える。気のせい、だろうか。



 コンビニから少し歩いて辿り着いたお洒落なカフェは私たち高校生が入るのには少し抵抗があるようにも思えたが、入口の近くにあるメニュー表を見ると値段はそんなに大人びたものではなかった。

「もっと高いのかと思った」
思わずそう声に出すと、隣で長宮君の笑う声がする。

「そういや名字ってバイトとかしてんの?」
「してないよ。生活費は親からの仕送りで何とか足りるし、忙しくてあんまり遊び回ったりしないから…」
「仕送りって?」
「うち、親が仕事で海外に行ってるの」
「え、両親とも?それってすげー大変だろ」
「うーん…最初はやっぱり色々不安だったけど、もう慣れたから大丈夫。…それに、」

――今はヒカル君も居るし。
そう心の中で呟いて、少し頬が緩んでしまう。それに気付いたのか長宮君は「ん?」と不思議そうな顔をした。

「ううん、何でもないよ」

何とか笑顔で誤魔化せば長宮君はそれ以上詮索せずに笑って言う。

「そんじゃ、ますます俺が払わなきゃな!」
「えっ、でも」
「だって名字、あんま無駄遣いしたら駄目だろ?俺はバイトしまくってるから金あるし!それに俺が好きで奢るんだから」
「!」
「っていうか俺さ、」

ふわり。優しい風が私と長宮君の髪を揺らした。それは、風に靡いた自分の髪が視界の端に映ったと当時のできごと。


「名字が好きなんだよね」


私は言葉を失った。


 20141207