pleatsskirt | ナノ
「何もあんな怖い顔しなくたって…」

今日もいつものように学校が終わり思わず零した独り言は、何とも大人げないものだった。ヒカル君に言いたくても言えなかった言葉。私は肩の力を抜いて、鞄を背負い直す。

「はあ…」
「どうかしたのか?名字、そんな不機嫌そうな顔して」
「! あ、長宮君」

教室を出ようとした私に声を掛けてきたのは、パンがたくさん入った袋を持っている長宮君だった。

「ううん何でもないよ、ちょっと疲れてただけだから」
「そうかー?あっそうだ、これでも食って元気出せよ!」
長宮君はそう言うと無邪気な笑顔で袋の中からいちごパンを引っ張り出し私に見せつけた。
「……いちごパン…?」
「すげー美味いぜ、多分!」
「た、多分って、長宮君これ食べないの?」
「あー、俺一人じゃこれ食いきれないからさ。せっかくだし名字にやる」
「いいの?」
「困った時はお互い様だろ!」

長宮君が太陽のような満面の笑みを浮かべた。私はそれを唖然と見つめながら、握らされた小包装のいちごパンに視線をずらす。(……でも何で…)

「そんなにたくさんパン買って、どうするの?」
「シールだよ、シール」
「え?」
「ほら、今コンビニでキャンペーンやってるだろ。パンについてるシール集めると景品と交換できるやつ!」
「…ああ、そういえばやってたかも」
「俺あれのでっかいぬいぐるみが欲しいんだよ。だからコンビニのパン買いまくったってわけ」
「なるほど」

そういうことなら有難くパンを頂こうと思い、私は「じゃあ、お言葉に甘えて」と笑顔でいちごパンを鞄にしまった。

「ありがとう」
「おう、どういたしまして!」
「また今度お礼するね。それじゃあまた、」
「! っあ、名字」
そう言って長宮君に背を向ける。しかし長宮君はいきなり私の腕を掴んで引き止めたかと思えば、また袋の中に手を突っ込んでがさごそと何かを探しているようだ。

「…ん?」
「あと、これも!」
「!……ウインナーパンだ…」

また渡されたウインナーパンを見つめながら、私は少し驚いたように目を丸くする。と、長宮君はひらりと手を振りながら笑顔で言った。

「親戚だっけ?それ、この前のあいつの分」
「あ……」
「んじゃ、またな」
「うん…ありがとう、長宮君。きっとすごく喜ぶと思うよ」
「なら良かったわ!」

そう言ったかと思えば長宮君は友達に呼ばれて教室の中へと消えて行った。私はウインナーパンも一緒に鞄にしまい、笑みを零す。これでヒカル君とも仲直りできるだろうか。
 そういえば今日一日、ずっとヒカル君のことで頭が一杯だったような気がする。

(私も甘いなぁ…)


 20140724