AIkurushii | ナノ
どん!!
その衝撃と同時に鈍い音を立てて私は床に倒れ込んだ。

「いッ、て…」
そういえば最近少しずつ口が悪くなっている気がするが気にしない。そりゃ皆に怪しまれないようになるべく男っぽく喋っていれば自然と口も悪くなってくる…って今はそれどころじゃなくて。
どうやら廊下の曲がり角で誰かとぶつかってしまったらしい。そして更にそのぶつかってしまった相手は俺に跨って何かを探しているようだ。
「…め、眼鏡…」
ぽつりと聞こえたその声に意識がハッとした。私の上に跨っているのは真名部だ。確か皆帆といつも一緒にいて、何かと張り合ってた…そういえば真名部とは全く接触がなかったから真名部は私のことを分かっていないかもしれない。しかし真名部はやっと眼鏡を見つけたのか眼鏡越しに私を見て言った。
「あ…森乃君…!」
真名部は慌てて私の上から退く。そして落ち着かない様子で眼鏡を掛け直した。

「す、すみません…少し考えごとをしていて前を見ていなかった僕が悪いです…」
「えっ、あ、いや。いいよ俺も前見てなかったし…」
「いえ…気にしないで下さい、僕のミスです」
「いいっていいって。それより真名部、何について考えごとしてたんだ?」
「え?ああ、今日の夕食を当てていたんですよ」
「夕食?」
「はい。暇だったので何かを計算したくてうずうずしていたら、たまたま夕食が頭に浮かんだので今日の夕食が何なのかを計算していたんです」
「…っぷ、はは!」
「!?」

私が笑ったことに吃驚した真名部が「何で笑うんですか!?」と言わんばかりに私を見つめる。私は笑いをこらえながら真名部に言った。
「だ、だってさ…はは、真名部って絶対そんなことしなさそうなのに…なんか意外で、はははっ」
「な、何ですかソレ…!」
真名部もちょっと笑いをこらえていた。何だか私たちの間にユルい空気が流れ出して、二人で笑った。

 それにしても真名部は意外と面白い人なんだな。
私が不意にそう言うと、真名部は「そうですか?」と首を傾げる。だけどちょっと笑って「森乃君もなかなか面白いですよ」と言った。そして何と恐るべき事態が起きたのだ。

「…そういえば、」
「え?」
いきなり私に近づき、私のお腹を触り出した真名部。さすがに吃驚して身を引けば真名部は何か真剣そうな顔で言った。
「森乃君は…どこか不思議ですね」
「っ、え…?い、いやそんなことは」
「ここに来てから毎日僕たちと同じメニューをこなして同じ量の食事をして…それなのに筋肉の付きが悪すぎます」
そりゃそうだ。だって私は女だし、いくら同じメニューをこなして同じ量のご飯を食べているからって筋肉の付きは女の私の方が悪いに決まってる。だけどそんなの真名部に言えるわけもなく、ついには冷や汗まで流れてきた。
「そ、それは…もともとの体質、っていうか…」
「それにしてもおかしいですね。それに」

真名部が私を見つめて眉間に皺を寄せる。

「君は…」

まずいまずい、と必死に言い訳を考えているうちに真名部が私の顔に自分の顔を近づけて、それからハッとしたように顔を離す。そして何やらおもしろげに言い放った。

「女性"みたい"ですね」
「……は?」
「よく言われませんか?顔立ちも体つきも声も、何だか男性らしくありません」
おいおい真名部、それはさすがに男に対してデリカシーが無さすぎじゃないか?(とは言っても私は女だが)
「そ、そうか…?」
「はい。おそらく幼い頃に女装をさせられた経験もあるんじゃないですか?」

…それにしても、だ。

「ま、真名部ってさ……」
「何ですか?」
「ほんと、皆帆と気が合うね…」

私はそう言って頭を抱えた。



(何で二人とも同じようなこと言うんだよ!)


 20130912