AIkurushii | ナノ
 私が女としてイナズマジャパンに参加する初めての朝が、やってきた。
まだ少しだけ気まずい気持ちのままいつものように食堂へと向かう。踏みしめる一歩一歩が、いつもよりも重く感じた。すると、後ろから軽快な足音が聞こえて、それは私の少し後ろで止まる。誰かと思い振り返ると、そこには見慣れた桃色の髪……さくらが立っていた。

「さくら…!」
「おはよ、ゆうは」

さくらに"ゆうは"と呼ばれるのには、すごく違和感を感じる。(まだ慣れていないせいもあるけど、それだけじゃなくて…)私はまだ、ちゃんとさくらと話ができていなかった。しかしそんな私の心境を察したのか、さくらは私の横にきて笑顔のまま言う。

「ゆうは、私ね。ゆうはが女の子だって知った時、なんか不思議だけど…それほど吃驚しなかったの」
「!……え…?」

私が驚いて足を止めるとさくらも足を止めて、少し照れ臭そうな笑顔を浮かべた。

「あの時私、ゆうはが女の子だったとしても好きだと思うって言ったじゃない?でもやっぱり、私、ゆうはとはガールズトークができるような友達になりたいって思う」
「……さくら…」
「ねえゆうは、今度はちゃんと女の子同士でショッピング行こうよ」

さくらはそう言って、にこりと優しく微笑んだ。私は唖然と立ち尽くしたままさくらを見つめる。じわり、どうしようもない気持ちがどこからか溢れてきて、また、涙が溢れそうだ。さくらだって、きっと、傷付いた。それでも私を責めることなどせずに、こうしてまた笑顔を向けてくれる。
(…私は……)
 私はさくらを、ちゃんとした友達として、仲間として、絶対に大切にしていきたい。これからも、ずっと。

「ああっ、もちろんだよ!」
「ほんと!?やったぁ!」
嬉しそうに飛び跳ねるさくらを見て、私はやっと心の底から笑えるようになったのだ。



 食堂に着くとキャプテンが真っ先に声を掛けてくれた。

「おーい、ゆうは、さくら、おはよう!」

そんな元気な声に、私もさくらも笑顔で返す。私はさくらの隣に腰を下ろして、それからしばらく色んな話をした。どんな服が好きだとか、どういう髪型にしたいだとか、今までこんな話を女の子の友達としたことがなかった私にとってはとても新鮮だったけど、笑いが絶えないくらい楽しくて、時間はどんどん進んでいった。

 朝食を終えると今日もいつものように練習が始まる。私は和人の隣を歩きながら、周りの皆と言葉を交わす。

「今日は、すごく良い天気だね」
「…うん。そうだね、和人」

和人と笑い合いながら、私は温かい仲間に囲まれてサッカー場へと足を踏み入れた。
 これからも、サッカーを、絵を、自分の好きなことをして生きていく。それが例え辛いことの連続だったとしても、私はこのサッカー場で仲間と一緒に乗り越えてきた。そして隣には、和人という愛しい人がいた。和人が、皆が、私のことを受け入れてくれた。笑顔も、涙も、悲しみも嬉しさも全部。皆と出会えたことで、私の世界は変わったんだ。
今はもう、こんなにもきらきら綺麗に輝いている。

「今日も、これからもずっと、サッカー頑張ろうな!!」
「ああ!キャプテン!」

キャプテンが私の肩を叩いて、ベンチの方へと走って行った。私と和人はそれを見ながら微笑み合う。ふわり、優しい風に包まれて、足がフッと軽くなった。

 お父さん、お母さん、私はもう辛くないよ。

「ゆうは」
「!、和人」

私には仲間がいる。サッカーがある。絵を描くこと以外に、将来の希望を見つけたんだ。

「ほら、行こう」

私はそんな沢山の幸せを抱えながら、これからも、

「――うん!!」




未来を、歩いてゆくのだろう。



愛くるしい



 20130414 END