AIkurushii | ナノ
 何も耳に入らなくなる。皆の反応を見るのが怖い。私はぎゅっと目を瞑って俯いた。

「…ほんとうに…ごめん」

自分の声が震えているのに気付いて、きつく唇を噛み締める。
 皆はまだ、何も言わない。

「男としてここにきた理由は、すごく…下らないものなんだ。責任は…ちゃんと、取ろうと思ってた。大切な仲間を騙し続けてきた私が、ここにいる資格なんてない…だから、私はもう
「まさかサッカーやめるなんて、言わないよな」
「…!!」

私の言葉を遮ったのは瞬木だった。瞬木の言葉に吃驚して顔を上げると、瞬木は不貞腐れたような顔で私を見つめていた。私は瞬木から目を逸らして、また視線を下げる。

「…やめようとは、思わない。きっとまた、サッカーしたくなった時は、するよ。でも、…」
「……」
「ここから、出て行くって、決めたんだ」

その言葉に誰よりも反応したのは和人だった。

「私は最低なことをした。嘘をついて皆を騙してた。それに…」

ちらりとさくらに目をやってから、ゆっくりと俯く。声を出せば出すほどに、涙も一緒に出てきそうになった。鼻の奥がつんとして、喉が痛くなってくる。震える手で、シャツの裾をぎゅっと握った。

「皆こんなに…良い人たち、だったのに。支えてくれたり、励ましてくれたり褒めてくれたり、たくさん、優しくしてくれた…認めてくれた、それなのに」
「ゆうきだって良い奴だよ!!」
「!!っ、…きゃ…ぷてん…?」

私が涙交じりの顔をバッと上げると、キャプテンはまるで私を怒鳴り付けるように大声を張り上げた。

「確かに吃驚した、まさか自分が嘘を付かれてたなんて思わなかった…でも!!ゆうきだって俺たちを支えてくれて、励ましてくれて、褒めてくれたし認めてくれた…!たくさん優しくしてくれただろ!!」
「そうだよ!ゆうきの優しいとこ、俺は好きだしこれからもそれが変わることなんてありえねぇ」
「僕も同意です。貴女がどんな理由で男の振りをしていたのかは知りませんが、そんなの貴女を嫌う理由にすらなりません」
「皆の言う通りだ。俺たちはお前のことを責めようなんて思わない」

キャプテン、鉄角、真名部、神童に続いて皆も、誰一人私を責めようとしなかった。私はあまりに想定外の反応に吃驚して声すら出なかったけれど、その代わりに涙が溢れる。それを見た瞬木が、一歩前に出て言った。

「森乃ゆうは」
「っ…う、ん」
「今度はちゃんと、嘘のない自己紹介をしてやれよ」
「!!…え、」

私が涙を拭う手を止めると同時に瞬木は私の腕を掴んで皆のすぐ目の前へと引っ張る。動揺した私は頭にハテナを浮かべたまま皆を見つめた。そんな私を見て、剣城が言う。

「吃驚したり信じられないが、それでも森乃は、俺たちの仲間だ」
「……!つる、ぎ…」

薄く微笑んだ剣城が涙で滲んで、またぼろぼろとだらしなく涙が溢れてくる。ぼやけた視界の中で、和人がちょっとだけ嬉しそうに笑っているような気がした。


「森乃…ゆうは、です…っ」

ぶるぶると震えた声は、少し掠れていてお世辞にも綺麗だなんて言えない。それでも私は泣きじゃくりながら、皆に何度も頭を下げた。


「よろしくな、ゆうは」



 皆は、また私に笑顔を見せてくれた。


 20140410