AIkurushii | ナノ
もうすぐ、時計が午後九時を指そうとしている。
食堂にはすでに、私が集めたイナズマジャパンの皆が集まっていた。皆は不思議そうな顔で私を見つめている。キャプテンの「ゆうは、何かあったのか?」という声により私は薄く口を開いた。緊張と不安によりカラカラになった喉が、ひゅう、と小さな音を立てる。
少し間を開けて、私は皆に聞こえるように言った。
「皆に、謝りたいことがある」
私が今から何を話すのかを知っている和人と瞬木以外が首を傾げる。ああやっぱり、皆は何も気付いてない。何も知らない。私の心臓はますます強く締め付けられた。それでもぎゅっと両手に拳を作り、私は続けた。口から出るのは自分の声のはずなのに、緊張のせいで違う人間の声に聞こえる。
「俺はずっと、男として皆とサッカーをやってきた。森乃ゆうきという名前を使って、皆を…今まで、ずっと騙し続けてきたんだ」
「……そ、それって、どういう意味だよ?」
眉間に皺を寄せて戸惑う鉄角の問いに、私は少しだけ沈黙を作った。しかしすぐに俯きかけた顔を上げて、言う。
「おれ、……私は…」
じわりと、掌が汗ばんだ。どくどくと心臓が音を立てて、すごく息苦しい。呼吸が上手くできず、酸素を満足に取り込むこともできない。(わたし、は……)
「私は、女なんだ」
――さっきまで聞こえていた時計の音も、時折聞こえる雑音も、全て、消えた。
20140410