AIkurushii | ナノ
 ばたん。
ドアを閉める音が部屋に響いて、私は深い溜め息をついた。色々考えすぎてふらふらになった足取りのまま、ぼふんと音を立ててベッドにダイブする。冷え切った布団が肌を掠って、何だか少しだけ痛いような気がした。

「……、…和人…」

和人の手は、もっと温かい。和人に触れたい。和人と最後にどんな話をしたっけ。そんなことばかりを考えていたら、急に携帯が鳴って私は思わず飛び起きる。
「っ、…!?」
ヴーヴーとバイブ音のする方へと視線をやれば、机の上に置きっぱなしだった携帯のディスプレイには"お父さん"と表示されていた。慌てて対応ボタンを押し、携帯を耳に当てる。

「…もしもし」

お父さんと話すのは確か、一ヶ月ぶりくらいだ。きっと仕事が忙しかったのだろう、なかなか電話を掛けてこないから私も電話を掛けるタイミングを逃してしまっていたのを思い出す。2、3秒だけ間があいて、懐かしい声が耳元で聞こえた。

『ゆうは、久しぶりだな』
「! …うん、久しぶり、お父さん」
『なかなか連絡できなくて悪かった』
「いや、大丈夫だよ。俺の方こそ、連絡しなくてごめんね」
『…!』
「お父さん、仕事忙しいのかなと思って」
『ゆうは、』
「…ん?どうしたの?」

お父さんは急に黙り込んだかと思いきや、まるで電話越しに頭を下げているかのような声で言った。

『ずっと無理をさせて、悪かった』
「…え…?」

突然の謝罪に戸惑いながら「どうして?」と問い掛けると、お父さんは辛そうな声で言う。
『父さんの考え方が間違ってたんだ。ゆうはは女としてでも十分強くなれるというのに、俺は…』
「!」

ぴたりと体が固まって、思わず手に持っていた携帯を落としそうになった。
黙り込んだ私に、お父さんは何度も『すまなかった』と謝る。そもそも私が男装をしてイナズマジャパンに参加したのは、お父さんの指示だった。お父さんは昔から"女は弱く見られる"という考え方を持っていたから。私はそんなお父さんの考え方を、間違っているとは思わなかった。私はお父さんのことを、尊敬している。お母さんが死んでから、お父さんは一人で私を育ててくれた。貧しい家庭だというにも関わらず、画家になりたいという私の夢を否定せずに、ずっと応援してくれていた。(だから私は……)

「大丈夫だよ、お父さん」

(私はお父さんに、喜んで欲しい。男として強くなって、周りに認められて、お父さんに笑って欲しいんだ)

「私これからも
『そのことなんだが』
「!……え?」


『もう、大事な娘に嘘をつかせたくないんだ』



 手が、震えた。
震える手を必死に握り締めて、私は、決心する。

「…ありがとう、お父さん」

私は周りに背中を押されてばかりだ。私は一人じゃ何もできない。でもそれは、周りに助けてくれる人達がいるから。私はここに来てからこんなにも素敵な仲間たちに出会ってサッカーを始めて、成長していく自分を少しだけ好きになれた。和人という大切な人にも出会えて、今こうして、大切な仲間を想って"悩む"ことができる。でもそれは、今日で終わりだ。

「もう、全部、やめるよ」


 20140404