AIkurushii | ナノ
 合宿所に戻り食堂へ向かうと、そこには宗正と剣城と久坂しかいなかった。珍しく三人同じテーブルに座り、雑談をしているようだ。

「おーゆうき」

私に気付いた宗正が片手を上げて私を呼ぶ。私もその呼びかけに答えて小さく手を振ると、宗正は「こっち座れよ」と言って椅子をバンバンと叩いた。とりあえず宗正の指示に従い椅子に座ってから私はまた周りを見渡して宗正に問い掛ける。

「皆はどっか行ってるのか?」
「そうみたいだな。俺は瞬木と皆帆が二人で食堂を出て行ったとこしか見てねぇけど」
「! ……、皆帆と瞬木が?」
「ああ。二時間前に出て行ったっきりだから、ショッピング街にでも行ったんじゃないか?」
「…そ、そっか……」
「?どうしたんだ、ゆうき」
「えっ?あ、いや!なんか珍しい組み合わせだなと思って…」

ちょっと驚いただけだよと説明すると、宗正は「言われてみれば確かに」と頷いた。

(それにしても…)
和人と瞬木が二人でどこかに遊びに行くなんて、きっと、ありえない。どうしてあの二人なのか。考えれば考える程に、それは何か私に関係することなのではないかと思ってしまう。さすがに考えすぎだろうか。最近ちゃんと和人と言葉を交わせていなかったから少し心配になった私は、ぎゅっと両手を握りしめて俯いた。するとそれに気付いた剣城が「森乃?」と私の顔を覗き込む。

「具合でも悪いのか?」
「い、いや、大丈夫。ちょっと疲れちゃってさ」
「そうか。…そういえば今日はどこに行ってたんだ?」
「ああ…ショッピング街に行ってきたんだよ」

じっと私を見つめる剣城から少し目を逸らして、私は小さく「途中でさくらに会ったから、一緒にショッピングモールを回ってたんだ」と付け足した。
剣城は少し驚いたように目を開いた。

「…野咲と、か?」
「…うん」

気付けば宗正は隣に座っている久坂と楽しそうに話していたから、私は剣城に体を向けてまた口を開く。

「全部、伝えたんだ」

剣城は驚いたのか目を丸くして俺を見た。だけどすぐに視線を下げて、「そうか」と小さな声で言う。

「ウジウジ悩んで逃げるよりも、キッパリ断ってやるべきだと思うぞ」
「その時が来たら、今度は逃げずに自分の気持ちを言えば良い」

俺はきっと、剣城の言葉が無ければ何もできずに今もさくらのことで頭を悩ませていただろう。剣城はそんな私の背中を押してくれた。剣城の言う通りに、ちゃんと断ったから今こうして私はまたさくらと笑い合えるようになったのだ。

「あのさ、ありがとう、剣城」
「! ……俺は何もしてない。森乃が勇気を出したから、良い結果になったんだ」
「…それでも俺は、剣城のおかげで前に進めた」

そう言って剣城に笑い掛けると、剣城もまた薄く笑って
「そうか、それなら良かった」
と言ってくれた。私はそれが嬉しくてまた笑う。それは、やけに幸せな時間に思えた。

(…ずっと、このままなら…)
それから宗正と久坂とも話をしながら、私はそんなことを頭に浮かべた。しかしすぐに頭をぶんぶんと振って甘い考えを消し去る。駄目だ、ちゃんと、これからのことを考えないと。
(皆に嘘をついているままじゃ、駄目なんだ)

 私はゆっくりと立ち上がり、三人に言った。

「俺、ちょっと部屋戻ってるね」
「おー、じゃあまた後でな」
「ああ。また後で」

三人に軽く手を振ってから食堂を出る。一人ぼっちの廊下は、こんなに寂しいものだっただろうか。

(……、…和人…)
瞬木と二人で、二時間も、どこで何をしているのだろう。ただただそれが気になって仕方がない。和人と喋らない時間が続くだけで、こんなにも不安になるものなのか。
私はぎゅっとシャツを握り締め、その場に立ち尽くす。

――会いたい。

「会いたいよ、和人…」


 20140404