AIkurushii | ナノ
「…ん?」
 それはとある夜のことだった。
皆が部屋に戻った後、トイレに行こうと思い部屋を出たらたまたま野咲さんを見かけたため私は何となく彼女の後を追ったのだ。別にバレたらまずいわけではないから非常に堂々と後ろに付いて歩いたのだが野咲さんは一向に気付く様子がない。ついには野咲さんが目的地としていたであろう自販機へと辿り着いてしまった。

野咲さんがポケットから小銭を出してジュースを買う。がこんと大きな音と共に出てきたジュースを見て何だか私もジュースが飲みたくなった。私は一歩ずつ野咲さんに近づいて声をかける。

「野咲さん」
「!…なっ、」
どうやら予想以上に野咲さんは吃驚したようで、私を見て固まってしまった。
「あ、ご、ごめん急に声掛けて…」
そう謝ると野咲さんは控えめに笑って返した。
「う、ううん、良いのよ。森乃もなにか買いに来たの?」
「ああ。ジュース飲みたくてさ」
「…へ、へえ。そうなんだ」

何やらぎこちない笑顔だ。私はやっぱり野咲さんに嫌われているのだろうか。そんなことを考えながら彼女の手元に目をやるとそこにはグレープジュースが握られていた。
「…グレープジュースか」
「えっ?あ、」
「いいね。俺もそれにしよ」
やっぱり相手が女の子だと会話もしやすくて、私は何とスムーズに野咲さんとの会話を終えて彼女と同じグレープジュースのボタンを押す。
がこんと音を立ててグレープジュースが落ちてきて、それを「よっこいしょ」と手に取った。そして野咲さんに笑いかける。

「冷たいうちに飲もうよ」
すると何故か暑いわけでもないのに野咲さんの顔が赤く染まった。

「…野咲さん?」
「っあ、う、うん」
ぷしゅっという音と同時に彼女はごくごくとグレープジュースを飲み始める。それを見た私もグレープジュースを飲んだ。これはかなり美味しい。また明日も買いに来たいくらいだ。
「これ、美味しいな」
「そ、そうね」
「野咲さんってグレープジュース好きなの?」
「うん…で、でも他にも色々好きよ。甘い飲み物、すごく好きで…」
「へえ、なんか可愛いね」
「!っえ、」
まるで漫画に出てる女の子のように一気に真っ赤になった野咲さんの顔に、さすがの私もやばいと思った。私は今、男なんだ。女じゃない。いや女だけども、野咲さんは私を男として見てるんだから、さすがにいきなり「可愛い」はまずかった!
私は慌てて首を振る。

「い、いや!ごめん、ほら、女の子って甘い物好きじゃん!それってさ、やっぱ男からしてみりゃ可愛いし…そ、そういうことだから!」
なんかごめん、と付け加えると真っ赤になった野咲さんが少しだけ可笑しそうに笑った。
「っふ、…なんか森乃って、面白いかも」
「え?」
すると野咲さんはにこりと可愛らしい笑顔を見せて言う。
「さくらで良いわよ」
こんな可愛い笑顔を見せられたら、私が男なら完全に好きになってたと思う。だが残念、私は女だ。
「うん、じゃあさくら」
「そ、その…私もゆうきって呼んで良い?」
「もちろん。改めてよろしくな、さくら」
「うん、よろしくゆうき!」

 どうやら私は別にさくらに嫌われていたわけじゃないようだ。だってこんなに素直で楽しそうな笑顔を見せてくれる。私は何だか安心した。


(さくらとはすごく仲良くなれそうだ!)


 20130911