AIkurushii | ナノ
 しばらく静かな沈黙が続いた後、さくらは少し戸惑ったように笑った。

「ど、どうしたの?急にそんなこと…」
「良いから、」
「!」

自分の笑顔が引きつっていることは分かっていた。それでも私はさくらに笑い掛けて、優しく言う。

「答えて」

さくらはそんな私を見て、固く口を結ぶ。そしてすぐに結んでいた口を解き、大きな声で叫ぶように言った。


「好き!!」


(…!)さくらは顔を真っ赤にして、私だけを見つめる。緊張しているのか、ぎゅっと拳を作った両手は微かに震えていた。肩で小さく息をしながら、その丸くてぱっちりしたスカイブルーの瞳を歪ませる。

「っこ、答えになってないかもしれないけど…私、ゆうきのこと、好きだよ。だってゆうきすごく優しいし、一緒にいると楽しいし…今日だってそうだった!あんなに楽しかったの、ゆうきが一緒だったから…!だから私……」
「さく、ら……」
「ゆうきが女の子だったとしても…それでも、たぶん、好きだよ」

手の甲で口元を押さえたまま俯くさくらを見つめたまま、私はさくらの言葉が素直に嬉しくて唇を噛み締める。
(私は…こんな、こんなにも…)

さくらはすぐに顔を上げ、
「そんな辛い顔しないでよ。ゆうき」
そう言って笑った。満面の笑みだった。さくらは私なんかよりも、ずっとずっと強い子なんだ。私は一度、さくらの気持ちを拒んだというのに。それでもまた、伝えてくれた。さくらは自分の恋が叶わないと分かっているのに、私に"好き"と言ってくれた。

「…っ、ご、め…ッ」

(私はこんなにも、みっともない)
ぼろぼろと涙を零して私は泣いた。泣きたいのはさくらの方なのに、私は何をしてるんだろう。どうしてあんな馬鹿な質問をしたんだろう。さくらはこんなにも私のことを好きになってくれたのに。

「ごめ、ん、さくら…っ、ごめん…」

泣きじゃくりながらそう言う私にさくらはゆっくりと近づいて、ほとんど変わらない背丈の私にぎゅっと抱き付いた。さくらの細い腕が背中に回って、私の服を控えめに握り締める。

「私のこと少しでも考えてくれて、ありがとう」

そう言うとさくらはスッと私から離れて、照れ臭そうに笑った。さくらの目にも、涙が滲んでいた。

「ゆうきが一瞬でも私のことで頭を一杯にしてくれたなら、それだけで私すっごい嬉しいもん」
「っ……さくら、」
「私ほんとは分かってたの。ゆうきの好きな人は私じゃないんだろうなぁって。でもゆうきは優しいから、あの時みたいに私のこと傷付けないように私の告白、止めてくれたよね」
「……あんなの…優しさじゃない。だってさくら…」
「傷付いてなんかないよ」

私は驚いて目を見開いた。さくらは涙を堪えているのに、それでも笑っていて。私の手をすくい取って優しく握ったさくらの手は、まだ震えていた。無理をしていることくらい、すぐに分かる。

「…本当に、ごめん」
「……うん」
「俺は……さくらのこと、友達としてしか見れないんだ」
「、っ…うん」
「それでも…さくらの気持ちは、すごい、嬉しいし…それに俺は、さくらに出会ってからたくさん楽しい思いをさせてもらった。…気持ちには応えられないけど、それでも…」
「…う、ん」
「本当に、感謝してるんだ」

好きになったのがさくらなら良かったなんて、絶対に言わない。だって私には和人がいるのだから。それでもさくらのことを大切にしてあげられたなら、どれだけさくらの心の傷を和らげることができたかな。

「…ほんとは好きって言って欲しかったけど、仕方ないから、"これからもよろしく"で許してあげる」
「!」
「私ね、サッカーを始めた時、こんなのつまらないって思ってた。サッカーなんかしてても何にもならないと思ってたの。でもね、今は、」

さくらは目を閉じて小さく息を吸った。そして、俯き気味だった顔を上げて空を見る。

「サッカー、楽しいなって思うよ。だってゆうきがいるんだもん。だから毎日が楽しくてたまらなかった!」
「!……」
「ありがと、ゆうき」

夕日に照らされながら微笑むさくらの顔は、何よりも綺麗だった。私はごしごしと乱暴に涙を拭って、さくらにぎこちない笑顔を向ける。

「これからも、よろしく」

するとさくらは幸せそうに笑って、

「明日からまた、練習頑張ろうね」

そう言った。




 20140331
 20140403修正