AIkurushii | ナノ
 さくらといる時間は、いつだって楽しいものだった。


「あ!みてこれゆうき!すっごく可愛い!」

さくらとショッピングモールをぶらぶらしてもうすぐ一時間。さくらが反応するのは可愛いぬいぐるみや雑貨だったり、はたまた美味しそうなケーキやお菓子だったり。まるで私がさくらの告白を拒んだあの日のことなんて無かったかのような明るい振る舞いに、私は少し驚いていた。それでも私の腕を引っ張りながら「次はあっち!」と楽しそうな笑顔を見せるさくらに、私はどこか安心していたんだ。

「さくら、疲れないの?」
また次のお店に走ろうとしたさくらを引き止めてそう尋ねると、さくらは少し首を傾げてから、言った。

「…言われてみれば、ちょっとだけ疲れたかも。でも、ゆうきと一緒だからついはじけちゃって…」
「!」

えへへ、と頬を掻きながら笑うさくらに私は何も言えなくなった。嬉しいような、でもやっぱり申し訳ないような。私も何か言わないとと迷った末、
「さくらが楽しそうで、本当に良かった」
そんなことを言ってしまった。

「ゆうき…」
さくらはぽかんと口を開けて私を見つめる。しかしすぐに嬉しそうに「すごく楽しい!」と返してくれた。やっぱりさくらは可愛い。それに優しくて、さくらと仲良くなればなるほど、ああこの子とは女の子として出会いたかったと思ってしまう。

「じゃあほら、次行こう!」

そんなもやもやした気持ちを全て追い払い、今しかない時間を楽しもうとさくらの手を引いた。





 一通りショッピングモールを回り、気付けばもう夕方になっていた。

「今日はすっごく楽しかったね」
上機嫌にスキップをしながら私の隣を歩くさくらはそう言って私に視線を向ける。私も、「ああ、すっごく楽しかった」と笑顔で返した。
思い返してみれば、合宿所以外でさくらと二人きりになることは初めてだと思う。私服姿のさくらは何だか新鮮で、夕日に照らされたさくらはすごく可愛いし綺麗だ。私が男だったら、きっとさくらに恋をしていたのかな。

「…さくら」

私は足を止めてさくらを見つめる。そんな私に気付いたさくらも足を止めて、「どうしたの?」と首を傾げた。何も知らないようなさくらの顔に、胸が痛くなる。

「ゆうき?」
「さくらはさ、」
そう言いかけると、さくらの肩が少しだけ強張った。真剣な顔の私を見て、さくらの顔からも笑顔が消える。さっきまでうるさいくらいだった周りの騒音がほとんど耳に入らない。どくんどくんと心臓が音を立てていた。

「…俺が、女だったら…どうする?」
「………え…?」


どくん。最後に一回、心臓が鳴った。


 20140331