AIkurushii | ナノ
 あれから部屋に戻って時計を見たらまだ午前11時だった。何だか今日は時間が進むのが遅い気がする。
(…どうせ暇だし、ショッピング街にでも行こうかな)
私は重い体を起こして出掛ける支度を始めた。





 ショッピング街は平日だってのに結構人で溢れているようだ。
ふと私と同じくらいの女の子がふわふわしたワンピースを着ているのが目に入り、思わず見つめてしまう。
(かわいいなぁ…)さらさらの長い髪に、薄化粧をした桃色の頬。それはまさしく"女の子"といった感じで。彼女を見た後に自分の格好を見ると少し気分が下がった気がした。一応お洒落はしているつもりだが、イナズマジャパンの一員として生活している以上は女物の服なんて間違っても着れない。男らしくない足を隠すための長ズボンにシンプルなTシャツ。お店のガラスに映った自分を見て、別にダサいわけじゃないし浮いてるわけでもない、けれど確かに感じた。こんなの自分じゃないという"違和感"を。
 正直、恋人である和人の前では少しでも女の子らしくしたいと思っている。ふわふわのワンピースだって着たいし長い髪を結んだしアレンジして「可愛い」って言ってほしい。でも和人は優しいから、こんな"女の子"じゃない私にも「可愛い」って言ってくれるんだ。それは嬉しいけど、やっぱり、心にある"違和感"が消えることはなかった。


 しばらくショッピング街をうろうろしていると、少し向こうに見慣れたピンク色の髪を見つけて私は思わず声を掛ける。
「さくら」
それに気付いたさくらは笑顔で「あ、ゆうき」と私に駆け寄ってきた。どうやらさくらも一人で買い物に来ていたらしい。

「ゆうきも買い物しに来たの?」
「ああ、うん。暇だったから」
「そっかぁ。奇遇だね」
「そうだな」

周りを歩く人たちに気を遣いながら、私たちは道の端っ子へと移動する。ふとさくらが持っている紙袋が気になって私はそれを指さした。
「それ、さっき買ったのか?」
「うんそうだよ。これね、すっごく美味しいって有名なお菓子なの!」

そう言って紙袋の中からお菓子を取り出して私に見せてくれたさくらに思わず頬が緩む。

「へぇ…良いな、美味しそう」
「あっ 良かったら案内しようか?」
「え、良いの?」
「うん! ……あ、あのさ」
「?」

さくらは少し顔を赤く染めて、私を見つめた。そして持っていた紙袋をぎゅっと握りしめて、「もし良かったら、なんだけど…」とまた口を開く。

「買い物…一緒にどうかな?」
「!」

言い終えてから唇を噛み締めるさくらを見つめ返して、私はあの日のことをまた思い出した。
「あっあのね!ゆうき、わたしっ…!」
(……ここで頷いたら私はまた…)またさくらに、期待をさせてしまうのだろうか。そんな風に思いつつも、目の前のさくらを見ていたら断ることなんかできなかった。

「ああ、いいよ。一緒に回るか」

 これが終わったら、ちゃんと言おう。自分の気持ちを全て伝えよう。私はそう心に決めて、さくらの隣を歩き出した。


 20140322