AIkurushii | ナノ
 ガタン。
音を立てて落ちてきたジュースを自販機から取り出した。今日はいつものグレープジュースじゃなくて、オレンジジュース。何となく和人の顔が見たくなったけどこんな情けない顔を見せるわけにもいかなくて、和人の髪の色だけで我慢することにした。
手に取った缶ジュースを眺めたまま、私は少し冷えた風を感じる。部屋を出てきて良かった。あのままずっと部屋にいたら、きっと全てが嫌になってしまう気がしたから。

(…あー、もう…)
とにかく嫌なことを考えるのはやめようと思い、缶を開ける。ぷしゅ、と小さな音と同時に私はオレンジジュースを口に含んだ。(…美味しい)
 ふと和人のことを頭に思い浮かべたその時だった。


「おっ、森乃じゃねえか」
「!! …あ、鉄角…」

急に後ろから声を掛けられて振り返ればそこには鉄角が立っていた。
「森乃もジュース買いに来たのか」
自販機にお金を入れながらそう問いかけてきた鉄角に、私は肩の力を抜きつつ「ああ。喉乾いちゃって」と返す。またガコンと音を立てて今度はペットボトルが落ちる。鉄角が買ったのはサイダーらしい。

「森乃はこの二日間どうするんだ?」
「え?ああ…そうだな、暇だしショッピング街にでも行くつもりだけど」
「じゃあ俺もそうするかぁ」
「鉄角も暇なのか?」
「まーな!」

鉄角はごくごくと美味しそうにサイダーを飲んでから、何やら思い出したように「そういえば」と口を開く。

「お前最近、皆帆とスゲー仲良いよな」
「!えっ」
「皆帆と気が合うのは真名部くらいだと思ってたからよ、なんか吃驚したぜ」
「そ、そうか?」
「ああ。でもたまに二人でコソコソしてる時あるだろ?どんな話してるんだ?」
「いっいや、コソコソしてるつもりは……」
(ない、とは言えない…)

あまりに予想外だった質問に戸惑ってしまい、私は何とか話を逸らそうとして必死に別の話題を探した。しかし頭に浮かんでくるのは和人が皆にバレないように私だけに言った言葉ばかりで頭がパンクしてしまいそうだ。

「可愛い顔は、僕だけに見せてね」


「っ……まぁその、何と言うか…」
「まさか森乃も推理小説とか探偵とかそういうの興味あるのか?」
「へ?あ、ああ!うん、実は少しだけ…!」

とにかく平然を装ってそう返せば鉄角は「へぇ…何か意外だな!」と言って笑った。そうだ、別に鉄角からしてみれば私たちは男同士なんだから何も怪しまれることなどないんだった。それなのに過剰に意識してしまう自分が憎い。そして私に甘い言葉ばかり言ってくる和人も少しだけ憎い。
(……まあ、うん)
和人とのことを怪しまれなくて良かった。

「そんじゃあ俺は部屋戻るぜ」
「う、うん。またな」
「おう!」

 また一人になった。
さっきまでの心地良い空気は打って変わって少し寂しいものへと変わる。私も缶ジュースを飲みほしてから、部屋へと戻った。


 20140319