AIkurushii | ナノ
「ゆうき!瞬木に回せ!」
「よしっ、そのままシュートだ!!」

 いつもの練習風景。いつもの神童やキャプテンからの指示。しかし一つだけいつもと違うことがあった。


(こ、腰が痛い…!!)

朝起きた時からズキズキと痛み続ける腰を押さえながら私は一旦足を止める。良いタイミングで休憩が入り、思わずその場にだらしなく座り込んだ。
「はあ……」
座ったら少しだけ楽になったが、それでも痛みは治まらない。それどころか体が石のように重くてだるいし今日はできれば練習を休みたかった。しかしどうにも休み難い理由があったのだ。(だってこれは……)
私は昨晩のことを思い出して頭を抱える。それと同時に頭の上から聞き慣れた声が降り注いできた。

「どうしたんだよお前」
「!……ま、瞬木…」
「具合でも悪いのか?」
「えっ、いやそういうわけじゃ…」

気付けば瞬木が私のすぐ後ろに立っていて、呆れたような心配したような顔で首を傾げている。私は小さな声で瞬木に言った。

「…腰、痛いんだよ」

瞬木はしばらく何も言わずにキョトンとしていたけど、すぐに私をじっと見つめて
「昨日、皆帆の部屋に行ったんだろ」
と聞いてくる。私は赤くなった顔を隠すように俯いた。

「……ちょっと話して、すぐ自分の部屋に戻ったけど」
「ヤったの?」
「!!?ッ、な、なっ…はあ!?」
「あれ違った?」

(こいつ人の話聞いてたの!?)
とは思いつつ、あまりにもあっさりと図星をつかれてしまい私はそれ以上何も言えなくなる。私の大声に驚いたキャプテンが「どうしたんだ?」と聞いてきたが私の代わりに瞬木が「何でもないよ」と返した。

「…ホント、むかつく」
「、っえ……」

正直瞬木とは昨日のことがあったせいで何だか気まずかったが、瞬木が不貞腐れたように私を睨んだからもっと気まずい気分になってしまう。

「……好き、かもしれない。森乃のこと」
不意に瞬木の言葉を思い出してまた瞬木の顔を見れなくなった。私は俯いたまま小さな声で言う。

「…ごめん」
「は?」
途端に瞬木は訳が分からないという顔をした。しかしすぐに察したのかバツが悪そうな顔になる。しばらく何とも言えない沈黙が続いた後、瞬木が私の頭を少し強めに叩いた。

「いたっ」
「そんな顔されたら、"幸せになれ"しか言えないっつーの」
「、え」
「謝られても困る」
「……うん」

瞬木はもう私の顔なんて見ずに「今日はもう無理すんなよ」とだけ言う。私は瞬木の不器用な優しさがとても嬉しくて、だけど切なくて、俯いた顔を少しだけ上げた。
「瞬木」
私の小さな声に気付き、瞬木が控えめにこちらを見る。いつも私に向けられる瞬木の鋭い目つきが、今は何だか優しいものに感じた。

「…なに?」
「ありがと」
「!」
「好きになってくれて、ありがとう」
「、っ………お前、さあ…」

いきなり片手で顔を隠した瞬木が私から目を逸らして呆れたように目を瞑る。そして、
「しばらくは、ぜってェあきらめないからな」
なんて小さく呟いた。私は"早く諦めろ"なんて言えずに顔を赤くして俯く。(和人がまた怒らないといいんだけど……)そう思いながら少し向こうで宗正と話している和人にちらりと視線をやった。


 "私"には、心から愛してる人がいる。

「そろそろ休憩終わるから、いこう」
「…ああ」

小さく頷いた瞬木と共に、私は皆の所へと歩く。不思議と、腰の痛みもさっきより和らいだようだった。
(ありがとう瞬木)
今だけ隣を歩いている彼を盗み見て、私は心からのお礼を言った。


 20140315