AIkurushii | ナノ
(皆帆視点)


 瞬木君が気付いているということを知っていたものの、やはりゆうはの口からそれを聞くことで少しだけ焦りを感じている自分がいた。

「……瞬木、気付いてた。私が女だってこと」

(…そりゃあ、瞬木君は…)
彼は、ゆうはばかりを目で追っている。他の誰かじゃなくゆうはだけをどこか悔しそうな目で睨むように見つめているのを僕は何度か目撃していた。そして何よりも気に掛かったのは瞬木君がゆうはを睨んでいるのは決まってゆうはが僕と二人で話している時なのだ。これはもう確実に、瞬木君はゆうはを意識しているということになる。
しかもその意識というのがまさか、恋だなんて信じたくはないけれど。

(まあきっと、そうなんだろうな)

「もともと瞬木君がヒントをくれたようなものだったから」
「え…?」
「ゆうはが女の子だって確信する少し前に彼に言われたんだよ。僕のすぐ近くに信じられない嘘が転がっていることだってある、ってね」
「そ、それって」
「君のことだよ」
「!」

ゆうはは大きな目を更に見開いて唖然と僕を見つめていた。しかし僕はそんなゆうは以上に焦ってしまっていてすごく情けない。
 瞬木君がゆうはを好きだなんて分かっていたことなのに、こうして実感させられると悔しくて仕方がなかった。瞬木君は同じイナズマジャパンの大事なチームメイトなのに、こんな時ばかりは邪魔だとさえ思ってしまう。本当に、情けない。

しばらく沈黙が続いて、ゆうはが不安そうに僕を見つめていた。今までのゆうはの行動や仕草を観察して分かったが、どうやらゆうはは瞬木君からの好意に気付いてないらしい。だからそんな鈍感なゆうはに、言いたくなった。ゆうはがどんな反応をするのかすごく興味がわいた。人を、ましてや大切な恋人を試すなんてしてはいけないことだと分かっているのに、つくづく僕は子供なんだ。

「……瞬木君は…――」

君のことが好きなんだよ、と。そう伝えようと口を開いた時、何ともタイミングよくキャプテンの大きな声がサッカー場に響き渡る。

「それじゃあ練習再開だ!皆集まってくれ!」

(…すごいタイミングだ)
僕は素直にキャプテンに感謝した。言う必要のないことを言わなくて済んだのだから。
慌ててキャプテンたちの元に集合しようと走り出したゆうはに続いて僕も走り出す。ゆうはがそっとこちらを盗み見たのが視界の端に映った。そんなゆうはに何だか申し訳ない気持ちになりながらも、やはり心の端っこに存在する焦りと悔しさが消えることはない。

それから練習が終わるまで、何だかゆうはに話しかける気分にならなかった。



 20140227