AIkurushii | ナノ
「さっきからずっとそんな調子だね」
「!え、」

 長い練習が続きやっと休憩に入ったと思いきや、和人が心配したように声を掛けてきた。私は和人に声を掛けられるまでボーっとしていたから和人の声に少し驚いてしまう。

「練習中もあんまり集中できてなかったみたいだし…どうしたんだい?」
「あ、いや…」

あまりの察しの良さにどう返して良いものか悩んでしまった。無意識にきょろきょろと目が泳いでしまうのは私の悪い癖だ。和人は私の顔を覗き込みながら再び「何かあったのかい」と尋ねてくる。

 そもそもの原因はすべて瞬木にあるのだ。

「……好き、かもしれない。森乃のこと」

(瞬木が…あんなこと、言うから…)
そうやって瞬木のせいにしてみたが、和人という恋人がいるのにこうして瞬木のことばかり考えてしまう自分も悪いと反省する。私は小さな声で和人に言った。

「……瞬木、気付いてた。私が女だってこと」

何だかすごく情けない声になってしまったが、和人は表情一つ変えずに「うんそうだね」とだけ返す。そんな返事にびっくりして目を丸くしながら和人を見ると、和人はやはり表情を変えぬまま続けた。

「もともと瞬木君がヒントをくれたようなものだったから」
「え…?」
「ゆうはが女の子だって確信する少し前に彼に言われたんだよ。僕のすぐ近くに信じられない嘘が転がっていることだってある、ってね」
「そ、それって」
「君のことだよ」
「!」

和人はひどく落ち着いているように見えたが、その瞳はどこか焦っているようにも見えた。いや、悔しそうと言った方がいいだろうか。私はそんな和人に疑問を感じて、少しだけ眉を顰めた。すると和人は何かを決心したように真っ直ぐに私を見つめて、口を開く。

「……瞬木君は…――

「それじゃあ練習再開だ!皆集まってくれ!」

最悪なタイミングだった。キャプテンの声が思いっきり和人の声をかき消してサッカー場に響き渡る。少し遠くにいたチームメイトたちが集合しているのを見て、私たちも急いでキャプテンたちの所へ走った。何となくだけど、和人はとても大事なことを言おうとしていたような気がして、私はそっと和人に視線を向ける。しかしもう、練習が終わるまで和人が話しかけてくることはなかった。


 20140226