AIkurushii | ナノ
 いつものように食堂に行くとそこには剣城がいた。

「おはよう剣城」
「ああ、おはよう森乃」

私は剣城が座っているテーブルとは別のテーブルに座ろうと思い足を進めたが、剣城が自分の隣の椅子を指差して「こっちに座ったらどうだ」と言ってきたため剣城の隣に腰を下ろす。
しばらくテーブルに肘をついてボーっとしていると剣城が言った。

「森乃、最近は野咲とどうなんだ?」
「えっ?」
「ほら、前に話しただろ。その…野咲とのことを冷やかされても気にするなと」
「ああ…うん。最近は、特に何も……」

言いかけたところで、私は口を閉じた。

「あっあのね!ゆうき、わたしっ…!」


(さくら……)


「……森乃?」
「! あ、ああ…ごめん」
「…何かあったのか?」
「いや!別に、何かあったというわけでは…」
「?」
「…分かんないよ?分かんないんだけどさ、その…この前さくらと二人で話した時に……告白、されそうになったんだ」

私がそう言うと剣城は目を丸くして驚いていた。しかし私は苦笑いを浮かべて続ける。

「俺さ、最低なことした」
「最低?」
「…さくらの気持ち、受け止めようとしなかった。さくらの言葉遮って、嘘ついてまで話題を逸らしたんだ」
「……それは確かに…酷い、かもしれないな」
「…うん」
「だが」

剣城は私を真っ直ぐに見つめて言う。すごく真剣な顔だった。

「野咲には野咲の気持ちがあるように、森乃にも森乃の気持ちがある」
「…そう、だけど…でも」
「お前は優しすぎるんだ」
「!」

(私は…優しくなんかない)そう心の中で呟いて、私は剣城から視線を逸らす。ちらほらと皆が食堂に入ってくるのに気付いたが、今はそんなの気にする余裕すらなかった。私は唇を噛み締めてから、また口を開く。

「両想いだったら、もちろん受け入れるよ。だけど…そうじゃなかった時の答えかたが、分からないんだ」
「ありのままの気持ちを伝えたら良いんじゃないか?」
「…ありの、まま…?」
「そうだ」

剣城は優しく笑って私の肩をぽんと叩いた。

「ウジウジ悩んで逃げるよりも、キッパリ断ってやるべきだと思うぞ」
「!」
「なんて、俺が偉そうに言えたことじゃないけどな」
「剣城……」

剣城の言う通りだ。
いつまでも悩んでいたって結果は変わらないんだ。私が好きなのは和人であって、さくらじゃない。だったら先延ばしするよりもキッパリと断る方が良いだろう。そして何より問題なのは、私が女であるということ。その秘密をこれからどうすれば良いのか、私はまだ分からないでいた。いつまでも嘘をつき続けたって、皆を傷つけるだけなのかもしれない。

 私がしばらく悩んでいると、剣城は優しい声で言った。

「…今はまだ、焦る必要はないんじゃないか?」
「でも、」
「その時が来たら、今度は逃げずに自分の気持ちを言えば良い。そうだろ?」
「!…… そう、だな」

私は大きく深呼吸をして、剣城に笑顔を向ける。

「ありがとう、剣城!」


(いつかちゃんと、話さないといけない。向き合わないといけない)


 20140210