AIkurushii | ナノ
(皆帆視点)


 あれからしばらくゆうはは僕の部屋にいた。
仲直りの後は少しだけ照れ臭いような気もしたけど、またゆうはと笑い合えて本当に良かったと思う。ゆうはは、こんな僕には勿体ないとさえ感じたがそれでもゆうはは傍にいてくれた。夜遅くまでずっと僕の隣で笑っていてくれた。あんなにも彼女を傷つけて泣かせてしまったというのに。

「ゆうは……」

すっかり呼び慣れてしまった彼女の本当の名前を口にする。さっきまでゆうはが座っていたベッドがまだ少し温かい。
 僕も彼女も、いつまでここでサッカーを続けるのだろう。怖いくらい静かな部屋で一人でそんなことを考えた。僕たちは、やめようと思えばいつでもやめられるのだ。だってもう条件は満たしているのだから。しかしそれでも彼女はやめようとしない。僕はやめようと思ったことが何回かあったけど、今の僕にはとても捨てられないものができてしまった。


「っ、私だって…好きだよ、和人の馬鹿!」



不意にゆうはの泣き顔が頭に浮かんでは、僕は手を強く握り拳を作る。
(何よりも…大切なんだ)
だんだんと温もりを失っていくベッドを見つめながら、心の中でそう呟いた。


 いつか彼女がサッカーをやめたら、僕たちはどうなるのだろう。僕たちがこうして同じ建物に寝泊まりして生活している必要性は、サッカーをやめた時点で消え去るのだ。考えれば考えるほどに、サッカーはあまりにも強く僕とゆうはを結んでいた。

(……初めは優勝も仲間も…サッカーすら、どうだって良かったのに)

僕には刑事になるという夢があって、彼女には画家になるという夢がある。そういえば僕は彼女の実家がどこにあるのかさえ知らなかった。
ここから離れたからといってゆうはと僕の気持ちが離れることはないはずだ。だけどやはり不安というのは突然襲ってくるものである。

 今だけは。
せめて今だけで良いから、彼女の一番近くに僕がいて、僕が彼女を守りたい。



 ゆうはが女の子だって気付いているのは、僕だけじゃないのだから。




 20140206
短いですごめんなさい